●ラジオドラマ「ミカンちゃんのラジオ人生相談」
第5回「わがままな孫」

金光教放送センター
登場人物
・青柳 文治 (88歳) 静岡県のミカン農家の隠居 愛称ミカンちゃん
・原田ケイコ (33歳) とあるラジオ局のアナウンサー
・横山 節子 (73歳) 主婦
・横山 博 (15歳) 節子の孫
(電話ベル音)
ケイコ:(電話を取る)ハイ、「ミカンちゃんの人生相談」です!
節 子:毎回聞いています。まさか自分で電話しようとは…。横山節子です。73歳になります。
ケイコ:ご相談はどういったことで?
節 子:私、精も根ももう尽き果てちゃって…。
ケイコ:ミカンちゃんがご相談に乗ります。
節 子:この春から中学3年生になった孫の博のことなんです。母親が早く亡くなってしまって私が母親代わりに育てているんですけど、その博が最近ひどくわがままになってしまって…夕べなんか…。
(柱時計が打つ)
博 :ただいまー。おばあちゃん、ハラ減った―。
節 子:お帰りー。
博 :チャーハン。いつもの。さ、早く!
節 子:…ゴメン、ゴメン。まだ作ってない。
博 :ええー! いつも作って待ってくれてるじゃないか、塾の日は必ず。
節 子:それがついウトウトしちゃって。
博 :チャーハンだけが楽しみで帰ってきたんだ。(プリプリして)いい。頼まない。もう寝る!(と、行きかける)
節 子:(慌てて)すぐに出来る。漫画でも読んで待ってて。
博 :寝るって言ってるんだ。(ふすま開ける)あ、布団、敷いてない。
節 子:(ハッとなり)すぐに敷いてあげる!
博 :勉強。勉強勉強勉強! 我慢してやっているんだ。僕のため? 違う。おばあちゃんがやれって言うから。もう行かない! 塾なんか死んでも行くもんか!
節 子:そ、そんなこと言わないで。
博 :大人になったらお父さんみたいに1日中会社へ行って働かなきゃなんないんだろう。大変だよ。だから今のうちに遊んどかなきゃ。
節 子:バカなこと言うんじゃないよ。今、一生懸命に勉強して、いい高校へ行って、国立の大学へ進んでくれるのがお前が小さな頃からのおばあちゃんの夢なんだから。
博 :イヤだよ、おばあちゃんの夢のために塾へ通うのはもう!
節 子:あんたのためなんだよ。おばあちゃんはね、あんたが可愛くて可愛くてたまらないから。
博 :どうして!? 自分で産んでもいないのに。
節 子:(ハッとなる)ひ、博!
博 :友だちのお母さんはみんな塾まで迎えに来ている。帰りにはファミレスへ寄って…。
節 子:(たまらなくなって)チャーハン、すぐに作るから。お布団も…。
博 :大きなお世話だ。僕の部屋から出てけーっ!
節 子:ひ、博!
博 :出てけったら出てけーっ!
節 子:(転ぶ)イ、イタッ。アイタタタ…。
ケイコ:ひどいお孫さんね。泣きたくなるお気持ち、よく分かります。ね、ミカンちゃん。
文 治:わしが博君ならば、とうの昔にグレておる。博君はエライ! 節子さんは良いお孫さんを持って幸せ者じゃのう。
ケイコ:(とがめるように)ミ、ミカンちゃん!
文 治:(ズバリと)肥やしの施し過ぎ!
節 子:(不思議そうに)…肥やし…の?
文 治:さよう。ミカンの木が求めている以上に肥やしを与えるとな、根っこが腐る。枝葉はしおれ、良い実を付けることは絶対にない!
節 子:…ハァ…。
文 治:考えてもみなされ。ミカンはおろか、例えば米の一粒でも人間が自分の手で作ることができるか?
節 子:そりゃあできません。で、でも…。
文 治:できん。米の一粒、ミカン、リンゴ、梨、何1つ作れん。ましてや人間の命、逆立ちしたって…。
節 子:作れません。
文 治:じゃあ、誰が作ったんじゃ? わしの命を。節子さんの命を…そして、博君の命を―。
節 子:(詰まる)そ、それは…。
文 治:神様じゃ。
節 子:…神様…が?
文 治:わしはな、ついこの間ミカンの苗木を植えた。30センチばかりの小さな木の、その若葉が天に向かいグングン伸びてゆこうとしている。さんさんと降り注ぐお天道さまに真っ黒な大地、海から渡ってくる穏やかな潮風、それらが小さな苗木を自然と大きゅう育ててくれるんじゃよ。
節 子:…自然…と?
文 治:(大きくうなずく)――神様の手で、自然とだ。ただ、わしは時折、若葉のそばであったかーい言葉をささやいてやるだけ。
節 子:…温かい言葉―。
文 治:隣の農園じゃ夫婦ゲンカばかりするもんじゃから、出来るミカンはまずい!
節 子:ケンカばかりしてるとミカンはおいしくない…。
文 治:台風が来るのを心配しちゃあ、苗木に馬鹿デカい添え木を力いっぱいくくり付けたりするもんじゃから育つもんも育たん。
節 子:力だけじゃダメ…。
文 治:そうじゃ。お前さんが今やっとることは、博君の成長を妨げることばっかりなんじゃ。
節 子:(ハッとなる)あ、ああ…。
文 治:(静かに)分かったかな?
節 子:ハイ。よく分かりました。ミカンちゃん! あ、ありがとう! ありがとうございましたー!
ケイコ:よ、よかったぁ!
