ラジオドラマ「LIFE」第11回 「介護」


●ラジオドラマ「LIFE」
第11回「介護」

金光教放送センター


登場人物
・富子
・たつ (富子の義母)
・正雄 (富子の夫)

(電話の鳴る音)

正雄 え? 何やて? …鍵? 無くしたんか。…それに…財布も無いて…?
泥棒が入った…? ほんまか?
富子 隣町に住む夫の母親から電話がかかってきた。義母は一人住まいだ。
正雄 オレ、ちょっと心配やから見てくるわ。もしかして、認知症…ちゃうやろか。
富子 ここで一緒に住んだらどうやの? 説得してよ。
正雄 そうやなあ、今まで一人の方が気楽でええ言うてたけどなあ…。もう80近いんやから。そやけどお前え  えのんか?
富子 良いも悪いも仕方ないのだ。義母との同居が始まった。

たつ 富子さーん、お腹が空いたんやけど、お昼まだやろか。
富子 今、支度してますから、ちょっと待ってて下さいね。 
富子 ほんまはとっくに食事は終わっている…。義母の頭は、あっちの世界に行ったり、こっちに逆戻りしたりしている。
富子 お義母さん、何してはるんですか?
富子 義母は、座布団の中から綿を引っ張り出して千切っている。
たつ 畑に草がようけ生えて、草取りしてますのや。
富子 ほな、私もお手伝いします。けど、大方取れてますわな、終りにしましょ。お母さん折り紙お上手でしたわねえ、買うてきましたんや。教えて下さいな。
たつ まあ、奇麗な色やこと。
富子 お義母さん、どの色がお好きですか?
たつ ピンク色ですな。…あのなあ。
富子 はい。
たつ このごろ私の頭が、あっちへ行ったりこっちへ来たりしますんや。あんた富子さんですなあ、うちのお嫁さんですわなあ。
富子 そうですよ。
たつ ほな忘れんように、この折り紙に名前書いときまひょ。

富子 あんた、起きて起きて! お義母さん 居はらへんの。
正雄 (眠たげに)トイレとちゃうか…。
富子 家中調べたんよ、どこにも居はらへん。

(深夜の雰囲気、犬の遠吠えなど)

富子 (息ハアハア)お義母さーん! お義母さーん! どこ行かはったんやろ…。もしかして…。
正雄 そうや、前に住んでた家や。
富子 元住んでいた家にも義母は見当たらず、結局お巡りさんに見つけてもらった。
義母は川沿いの道を、泥だらけの足でふらふら歩いていた。
正雄 家中、鍵を付けんとあかんなあ。
富子 それでも義母はなぜか家を抜け出す。私は義母の隣に寝て、義母の手と私の手をひもで結ぶ。夜中に徘徊はいかいしようとする義母をなだめても言うことを聞かない時は、私も一緒に夜の町を歩いた。
富子 お義母さん今日はどこへ行かはるんですか?
たつ ちょっと、そこまで。あんた付いて来んでもええのに。
富子 もうへとへとや、何とかしてよ。
正雄 オレかて仕事があるんや。
富子 だからもうちょっと早く帰るとか。
正雄 忙しいんや。
富子 夫は明らかにこの現状を避けている。自分の母親が壊れていくのを見ているのがつらいのだ。

(町のノイズ。自転車のベルなど)

富子 自転車で買い物に行くだけでもしんどいなあ。

(車の急ブレーキ、自転車急ブレーキと共に、車にぶつかり、倒れる)

正雄 足のねんざだけで済んで良かった。ほんまに済まんかったな、お前一人に無理させて。オレ、2、3日会社休むから、ゆっくり寝てたらええわ。
たつ お母さんはどこかへ行かはったんですか?
正雄 お母さんて…?
たつ ここのところ、姿が見えんのやけど。
正雄 お袋のお母さんなんて、とっくに死んでるやないか。何を言うてんねん。
たつ あんたこそ、何を言うてるんですか。
うちに優しゅうにしてくれはる、お母さんですがな。
富子 どないしたん?
たつ お母さん! この人の作ったご飯はまずいんです。
正雄 えっ、おれの作った…?
たつ おいしいご飯、早よ作って下さいなあ。
富子 私は義母が急にいとおしくなってきた。本当の母親になったつもりで、お世話をしよう。大変やけど、大変と思わん程度に頑張ろう。
たつ お母さん、お母さん。
富子 はいはい。今日はお天気やから、お散歩に行きましょね。帰りにお義母さんの好きなお菓子を買いに行きましょ。
たつ へえ。
富子 それからひと月後、義母は肺炎であっけなくこの世を去ってしまった。私は義母の折紙で鶴を折り、写真の前に供えようと思い、義母の好きなピンク色を抜き出す。と、義母の震えた字が目に止まった。
たつの声 富子さん、おおきに。

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