ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」第7回「 教祖が強盗をしている…?」


●ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」
第7回「教祖が強盗をしている…?」

金光教放送センター


登場人物
 ・芳三よしぞう   30代
 ・つね   (同)
 ・熊吉くまきち   (同)
 ・教祖


(鳥のさえずり)

つね 芳三さん、おはよう。これから畑仕事かい?
芳三 やあ、おつねさんおはよう。なあ、徳川様が倒れて、明治の御世みよになったというのに、近頃この辺りは物騒な世の中になったなあ。
つね そうそう、米は凶作だし、コレラははやるわ、浪人は増えるわで。あんた知ってるか?
芳三 何を?
つね ゆうべ、庄屋さんの家に強盗が入ったって。
芳三 えっ!
つね 食べるに困った人たちが入ったらしいよ。
芳三 そうかー、おっかないなあ。で、庄屋さんは無事だったのか?
つね うん。
熊吉 おーい、芳三。
つね あれ、熊吉さんだ。
芳三 慌てて、何だい?
熊吉(息、ハアハア)村の者で自警団を作ることになってよ。
芳三 はあー?
熊吉 村が強盗に襲われないように、俺たちで守ろうってことになったんだ。
芳三 自警団って、いくら泥棒だって、俺たち貧乏人の家には入らねえだろう。
熊吉 貧乏だろうが金持ちだろうが、関係ねえらしい。村はずれの佐吉さきちの家では、みんなが畑に行って留守の間に、おひつの中の麦飯まで空っぽになってたそうだ。
つね へえー、おっかないねえ。あんたたちよろしく頼むよ。
熊吉 おつねさんも、早くから戸締りして、誰も入れねえようにするんだよ。

つね それで、ゆうべはどうだったんだい?
熊吉 俺たちで見回りしてた時は何事も起こらなかったんだけどな、妙なうわさを聞いたんだ。
つね うわさって?
芳三 金光さんが弟子たちと、夜な夜な強盗に入ってるんじゃないかって…。
つね 金光さんって大谷おおたにの神様だろ。いくら何だって…。
熊吉 でもよ、村の家は一軒残らず戸締りしてるのに、金光さんの所だけは一日中、夜中も戸が開けっ放しなんだ。それに門の脇に米俵が積まれてるんだとよ、もしかしたら庄屋さんの所から盗んできた米じゃねえかって、うわさしてる。
つね へえー。
芳三 それによ、金光さんのところにはえたいの知れない浪人たちが泊まったりするんだそうだ。
つね それじゃ私、一度金光さんの所に行って聞いてこようかね。
芳三 つねさん、金光さんの所行ったことあるのかい?
つね 無いから行くのに決まってるじゃないか。
熊吉 気を付けてな。

つね 金光様こんにちは、つねと申します。
教祖 おお、つねさんよく来られました。
つね ところで金光様ちょっとお尋ねを致しますが、この物騒な世の中なのになぜ夜中も戸を閉めずにおられるのですか?
教祖 それはいつなんどきここにお参りに訪れる人がいるかも知れません。神様にお願いのある人、または相談事のある人、夜に遠くから歩いてくる人。ですから表戸は昼も夜も開けておくのですよ。
つね それでは用心が悪いのではございませんか?
教祖 いいえ、神様がちゃんと見ていてくださいますから安心です。
つね では、ここに浪人たちが夜泊まったといううわさは本当でしょうか?
教祖 はい。
つね え 浪人たちが強盗をするなどといううわさもありますが?
教祖 あの人たちは、夜泊まっていっただけですよ。
つね では…。
教祖 何ですか? ああ、うわさの米俵のことですか。
つね は、はい。
教祖 あれは以前から蓄えておいたもので、誰かのお役に立つかと思って、門の脇に置いてあるのです。

つね …という訳でさあ。
芳三 えー、金光さんがそう言ったのかい? 誰かの役に立つと思ってって。
つね そうだよ。
熊吉 でも、庄屋さんの家では米俵も取られたんだぜ。だってさあ、世間のうわさってのは、煙のないところには火は立たねえって言うじゃないか。
芳三 熊吉、それを言うなら、火の無いところに煙は立たねえだろ。
熊吉 そうとも言える。
つね 私は金光さんの言うことはもっともだって、感心したけどねえ。でも私はおっかなくて、浪人なんか家には泊めないけどね。
熊吉 よし、それじゃあ今夜芳三と一緒に金光さんの家の見張りをしよう。なあ芳三。
つね 寝ずの番かい、ご苦労さまなことだね。

(ピイピイ鳥の鳴く声)

芳三 (あくび) あー眠たい…。
熊吉 俺もだ。
芳三 何言ってんだ、おまえ夜中にぐっすり寝込んでたじゃないか。
つね おはよう、ゆうべも強盗騒ぎがあったの知ってるかい。
芳三 え、そうなのかい?
つね で、あんたたち、金光さんの見張りはちゃんとやったんだろうね?
熊吉 おう、ちゃんと見付からねえように一晩中陰から見張ってた。
芳三 何だい、熊吉偉そうに。
つね で、どうだったんだい?
芳三 金光さんは、一晩中神様の前から動かなかったよ。夜中にお参りの人が来て、「金光様、今夜は月がさえて奇麗です、外でご覧になったらいかがですか?」と言ったのに、「私は、世の人にけがや過ちがないように、神様にお願いしていますから、このご神前を動くことは出来ません」と言って座ったままだった。
つね へえー、そうなのかい。
熊吉 それでよ、続きがあるんだ。
つね 何だよ? もったいぶって。 
芳三 実はな、朝になって俺たちが帰ろうとしたら、金光さんの奥さんが呼びに来た。
つね びっくりしたろう?
芳三 それで金光さんの所に行ったら…。

教祖の声 一晩中ご苦労さまでした。よく見張っていてくれました。これで私への疑いは晴れましたか。

つね(笑う)
熊吉(笑いながら)何でもお見通しで参っちまったよ。
芳三 全くなあ…。誰だよ、寝ずの番しようって言ったのは…。

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