●ラジオドラマ「晴れのち晴悟郎」
第8回「虫に喰われる!?」

金光教放送センター
時 7月
所 長野県の山中
登場人物
・晴悟郎 (バイクツーリスト)68歳
・範子 (主婦)30代
・喬 (範子の子ども)6歳
・悟 (喬の友だち)6歳
・千春 (女医)40代
・ナレーター
(何かにつまづいて倒れる)
晴悟郎:うわぁー!…い、痛ーい!
(山の中、鳥の鳴き声など)
(ナレーション)
長野県の、とある林道をバイクで走っていた晴悟郎さんは、用を足したくなり、バイクを止めて近くの藪の中へ入って行きました。ところが倒れていた大木にけつまづき、ケガをしてしまったのでした。
晴悟郎:何だ、この木、中がスカスカじゃないか。虫が食ってらあ。倒れるワケだ。イタ…アイタタタ…あっ血が出てる。心配だから病院に行くかぁ…。
(病院、ロビーのざわめき、呼び出しのアナウンスなど)
千 春:うん、大したことないわ。でもバイ菌でも入ったら厄介だから消毒しときましょう。ちょっと、染みますよ。
晴悟郎:先生、あの林道はお国の…ほら、何てったっけ、営林署? 役所が管理してるんでしょ?
虫喰いの大木を放っとくなんて。これから役所へ文句を言いに行ってきますよ。
千 春:藪の中なんでしょ?
晴悟郎:ああ、染みるぅ…。
千 春:(笑って)文句って、言うとスッキリするかもしれんけど、虫が食いますよ。
晴悟郎:(不思議そうに)え、虫? どこを?
千 春:こ・こ・ろ。
(ナレーション)
晴悟郎さんが待合室で薬が出来上がるのを待っていると…。
(ドア乱暴に開いて、数人の足音、急いで来る)
悟 :先生ー、い、痛い、痛いよう…。
千 春:治療室へ。早く! 大丈夫よ! しっかりー!
喬 :悟くーん! 目、見えなくなっちゃったら…僕のせい。うわーん!(激しく泣きじゃくる)
(治療室のドア閉まる)
喬 :(シクシク泣いている)
晴悟郎:(恐る恐る)…あの、ジュース買ってきたんで、良かったら…。
範 子:え? あ、…どうも…(胡散臭げに)
晴悟郎:…お母さん、良かったら事情を話してくれませんか。
範 子:ああ、先ほど幼稚園の庭でうちの子が振り回していた木の枝の先が運悪く悟君の顔に当たって…。
晴悟郎:…それで…?
範 子:悟君、目の辺から血を流して…も、もしかしたら…。
喬 :(突然、ワーッと激しく泣く)
範 子:黙りなさい!(喬の頬をピシャリと叩く)
喬 :(さらに激しく泣く)
晴悟郎:(突然叫ぶ)虫だ!
範 子:…えッ?
晴悟郎:私、さっきちょっといらいらしてお医者の先生に文句を言ったら、「あなたの心は虫に食われてる」って。
範 子:虫ッ?
晴悟郎:起きてしまったことはもうどうにもならない…だったら今出来ることは何だろうって、よく考えなきゃ。虫食いだらけの心じゃ、冷静に事を運ぶことが出来ない。それじゃお子さんが可哀想…。
範 子:…心が…虫に…。
晴悟郎:うん、心配事、不安な感情。それって悪い虫の大好物でね、モゾモゾモゾって心の中で大暴れ。人を責めたりののしったり…。もうみんなその悪い虫のせいなんだ。だったらそんな虫はパーッと追っ払っちゃって…。今、出来ることを一生懸命にする!
範 子:何なんですか? 今出来ることって…。
晴悟郎:祈ること。神様に。悟君の目の回復と、あなたのお子さんの心の立ち直り…。
範 子:(初めて気が付く)…喬の心?
晴悟郎:こういう時にこそ、「お母さんが付いてるから大丈夫! 安心して!」って言って安心させてあげなきゃ!
範 子:分かりました! ゴメンね、喬! 神様ー! 悟君の目が、目が治りますように! (祈る)
喬 :僕も一生懸命にお祈りする!
晴悟郎:…私も…!
(治療室のドア開く)
千 春:(明るく)幸い傷は眼を外れてました。1週間も経てば元どおりに。
範 子:…ウ、ウウウ…(うれし泣く)。
喬 :(泣きながら)良かった悟くん、良かった…。
範 子:(泣き笑う)本当に。(晴悟郎に)あなたのお蔭です。どうもありがとうござい…(辺りを見回す。晴悟郎の姿はもうない)…あら…どこへ、行ってしまわれたのかしら…。
(バイク疾走音)
晴悟郎:(鼻歌交じり)いいことしたなぁ…。俺ってけっこうやるじゃん…。
おっと、鼻高々になるってェのも心の中に悪ーい虫が。ヤバイ! 気を付けなくちゃ!
