●ラジオドラマ「ミカンちゃんのラジオ人生相談」
第4回「悪い虫」

金光教放送センター
登場人物
・青柳 文治 (88歳) 静岡県のミカン農家の隠居 愛称ミカンちゃん
・原田ケイコ (33歳) とあるラジオ局のアナウンサー
・宮崎 由加 (25歳) 医療品販売会社のOL
・彼 氏 (35歳) ライヴハウス専属のミュージシャン
(電話のベル音)
女 性:(不安げ)…モシモシ。あの、ミカンちゃん…ですか?
ケイコ:ハイ。こちらは「ミカンちゃんの人生相談」です。
女 性:あの…ミカンちゃんて、女性ですよね。
ケイコ:(プッと吹き出す)おじいちゃん。88歳の…。
女 性:えっ…(と、絶句)あの、恋愛の相談なんですけれども。
文 治:(割り込んで)恋愛のことならばわしに任せておけ。ワッハッハッハッ…。
ケイコ:では早速、「ミカンちゃんの人生相談」を始めましょう!
文 治:(唐突に)食っとるか?
女 性:…えっ?
文 治:飯は普通にのどを通っておるかと聞いとるのだ。
女 性:ヤケ食いしてます。
文 治:じゃあ大したことはないな。わしなど恋をする度に一貫目ずつ痩せ細っていったもんじゃ。
女 性:ハァ?
ケイコ:ミカンちゃん。ご相談の内容をうかがいましょうよ。まずお名前とお年をどうぞ。
女 性:…宮崎…由加―。25歳。
ケイコ:ご相談の内容は?
由 加:今から半年ばかり前のこと…私、医療品を売っている会社で経理を担当してます。忘年会の後に会社の先輩に誘われて新宿のライヴハウスへ…。そんな所へ行くのは初めてでした。飲み過ぎちゃって。帰りの道でフラフラして、倒れちゃったんです。
(夜の街音)
彼 氏:どしたの? 彼女。雨、降ってきたよ。濡れたら風邪を引くよ。ほら、俺の肩につかまりな。ソレ、ヨッコラショ!
由 加:すっごく優しくしてくれて。タクシーを拾って家まで送ってくれて。名前を聞いたら…。
彼 氏:客席で俺のこと見てたじゃん。可愛い子だなって思ってたよ。じゃあまた店で!
(タクシーのドア閉まる。車、発車)
由 加:あたし、ボーっとなっちゃって。それからは、毎晩のように彼の歌と演奏を聴きに店へ…。アッという間でした。プライベートな関係になるのは。
文 治:幸せだったんじゃなあ…
由 加:はい。だけど、幸せな時はすぐに終わって。彼、奥さんがいるのに店に来る女の子たちと次々に…。
文 治:悪い男に引っ掛かったもんじゃなあ。
由 加:でも彼の歌声を聴いていると、天に舞い上がる気がするの。仕事の疲れも一気に吹き飛んで…。別れたくない、彼にそう言ったら…。
文 治:何と?
彼 氏:「金くれるなら会ってやってもいいぜ」。
文 治:(激高)バ、バカもーん! わしは何のために50年以上もミカンを作ってきたと思う? 金のため? 違う。食べてくれる人のため? それもあるが、それ以上に、ミカンがただただ可愛いから―。
由 加:…ミカンが、可愛いい?
文 治:カッコをつけて言わせてもらや「無償の愛」ってヤツじゃろうか。わしはミカンに対して何かをしてもらいたいと思い世話をしたことはただの一度もないぞ。ただ、わしの農園でピカピカの実を付けてくれることがありがとうて…もったいのうて…。それで、朝に晩に「いい子、いい子」をしてやっているだけだ。「恋愛」というのも、そんなものなんじゃあないのかなあ…。
由 加:…あたし、あたし…。
ケイコ:何ですか?
由 加:ミカンちゃんの農園のミカンになりたいです!(と泣き声になる)
文 治:…お前さん、今までに…。
由 加:ハイ。愛された記憶がただの一度もないんです。小さな頃に父親が死んで、母が再婚先で産んだ妹ばっかり可愛がって…(さらに激しく泣く)。
文 治:これからは、毎日が稽古じゃな。
由 加:…ケイコ?
文 治:愛する稽古じゃよ。相手は男でなくても構わない。この世にあるものは全て神様がおつくりくだされたものなんじゃから。
由 加:…神様…が?
文 治:そうじゃ。山も川も。鳥や馬や牛も魚も。道端に咲いとる小さな花もじゃ。可愛いなあと思って…愛するんじゃ! 愛する稽古を今すぐに始めるんじゃ!
由 加:…愛する…稽古…。道端に咲いている小さな花も。動物たちも。そして周りのみんなを!
文 治:自分を愛する稽古もな。
由 加:…自分も?
文 治:そうじゃ。神様から授かった尊い命じゃからなぁ。可愛い、可愛い。それを毎日のようにしてやってな。それからのことじゃよ、相手を愛するのは。そうすればピカピカに光るうちのミカンのようになって虫がたくさん寄ってくるぞー。ウワッハッハッ…。
ケイコ:ミカンちゃん! 悪い虫がたくさん寄ってきたりしたら困るじゃありませんか!
文 治:蜜蜂じゃよ。アハハ。不誠実極まりないミュージシャンは、こちらの方からポーイ!と投げ捨ててやれ!
由 加:ハイ!(と明るい)どうもありがとうございましたー!
ケイコ:「ミカンちゃんの人生相談」でした。来週もまたご相談を待ってまーす!
文 治:わしも、待っとるぞー!
