●ラジオドラマ「晴れのち晴悟郎」
第3回「恋のうず潮」

金光教放送センター
時 現代 10月
所 徳島県鳴門市
登場人物
・晴悟郎 (バイクツーリスト)68歳
・真理 (オフィスレディー)23歳
・幸助 (フリーター)26歳
・滝 (無職)80代
・ナレーター
(バイク来る)
(ナレーション)
ある秋の日、晴悟郎さんは、渦潮を見に鳴門海峡へやって参りました。
(バイク止まる)
(ナレーション)
海峡の近くの公園にバイクを止めて渦潮を間近に眺められる遊歩道の方へ歩みかけると、この辺りの人なのでしょうか、普段着姿のお婆さんがニコニコしながら晴悟郎さんに近づいて来ました。
滝 :(海鳥が鳴く)…ええ夕焼けだろう…。
晴悟郎:…ええ。
滝 :あたし、ここの夕焼け大好きなんよ…。
晴悟郎:お近くの方なんですか?…遊歩道へは…。
滝 :あっちじゃよ。…ほなけど、もう閉もうてしまったよ。
晴悟郎:えっ? ああ、残念…。
(小型バイク来て止まる)
幸 助:ほら見ろ、中に入れないじゃないか。真理が出掛けにグズグズしてるから。
真 理:渦潮なんて見なくたっていいじゃん。ほら、夕焼けが奇麗だよ、幸助。
幸 助:ああ、…なあ、真理、いつ親父さんに俺のこと話すんだよ。
真 理:言えやしないよっ。仕事も持たずに、「バイトだけで食いつないでいる男」だなんて…。
幸 助:俺が好きかどうかってこと。親父さんの許可なんて要らねえ!
真 理:小さな時に母さんが死んで…。私、父さんにだけは…。
幸 助:やっぱり親父の方が大切なんだ、俺よりも…。
真 理:違がうっ。そういうことじゃないって何回言ったら分かんの! 幸助なんか大嫌ーい! (駆け出す)
(ナレーション)
興奮した娘さんは、暗くなりかけた遊歩道に向かって駆けて行きました。
幸 助:待て! 真理ー、待てよー!
(ナレーション)
幸助さんが真理さんを追いかけました。
晴悟郎:な、なんだ、あの2人…
滝 :あっちには崖が! は、はよお!(滝 転ぶ)イ、イタッ!
晴悟郎:あっ大丈夫?
滝 :おんぶ! あたしをおんぶじゃ!
晴悟郎:ヨイショ!(晴悟郎 滝を背負って駆け出す)
真 理:死、死んでやるー!
幸 助:何すんだ、よせ!
真 理:は、放してー!
滝 :(突如)あんた、やめとき!
一 同:ええっ!(と驚いて動きを止める)
(岸壁に打ち寄せる波音)
滝 :(冷静に)もう60年以上も昔の話じゃけどな。この男と一緒やったら海の泡になって消えてしもうてもええ…ほんなふうに身も心も捧げた人があたしにも…。
一 同:…。(真剣に耳を傾けている)
滝 :若かったんよ。親の反対を押し切って一つ屋根の下で暮らしてはみたものの、すぐに飽きられ捨てられて…あたしは病気にかかり…。なんもかんもがメチャクチャ。死のうと思ったんよ…ほんな時、父さん、「一緒に死のう!」って言うてくれて…。
真 理:(ハッとなって)おばあさんの、お父さんが…。
滝 :「あたし以上に父さんは苦しかったんじゃ!」…そう、気がついたの…。ほんで死ぬん、止めたんよ…。
晴悟郎:…そんなことが…。うちのお袋がよく言ってました。「人の苦しみは神様の苦しみ…」って――。
真 理:苦しいのはあたし一人じゃなかったんだ…。
幸 助:真理の親父さんも…。
真 理:…えっ。
幸 助:真理、帰りな。家へ…。俺、まともな仕事を探して近いうちに必ずあいさつに行くから…。
真 理:幸助! ウッ…ウウウ…(うれし泣き)
(バイク走行音)
真 理:すみません。見ず知らずのおじさんに送ってもらって…。
晴悟郎:ハハハッ、よくお袋が言ってた。「人を助けてわが身助かる」って。
真 理:ええッ意味がよく分かんない。
晴悟郎:自分が一生懸命に何かをしてあげて相手が喜ぶといい気分になる。また、誰かのために役立つことをしてあげよう! 小さなことでも構わない。そんなことを積み重ねてゆくと今度は自分が困った時には必ず神様が助けてくれるって、そんな意味かな。
真 理:おじさん、良かったね!
晴悟郎:えっ?
真 理:だってあたしを助けてくれたから…今度おじさんが恋に悩んだ時には神様が!
晴悟郎:恋? この年齢で
真 理:まだまだイケてるよっ。
晴悟郎:ハハハッ、アリガト!…二人で幸せになりな!
真 理:うん、おじさんも…ね!
晴悟郎:ウン!
