●ラジオドラマ「ミカンちゃんのラジオ人生相談」
最終回「誰でもできること」

金光教放送センター
登場人物
・青柳 文治 (88歳) 静岡県のミカン農家の隠居 愛称ミカンちゃん
・原田ケイコ (33歳) とあるラジオ局のアナウンサー
・清水恭平 (65歳) 無職
・恭平の母親 (90歳)
ケイコ:秋。ミカンの季節が、またやってきますねえ、ミカンちゃん。
文 治:(ニヤニヤしつつ)初なりのミカン。君に進呈しようと持ってきたんじゃよ。ホレ。(ミカンを差し出す)
ケイコ:えっ、もう!?(と驚いて)
文 治:早生じゃよ。この後に中手、晩生へと続く。わしは今年で八十八歳。ようやく人生の妙味が分かりかけてきたから晩生中の晩生というワケじゃなあ(笑う)。
(電話ベル音)
ケイコ:(受話器を取り)もしもし、「ミカンちゃんの人生相談」です!
男 性:うーむ。近頃じゃあ今が昼なのか夜なのかよく分からん。うちのお袋90歳。気持ち良さそうに眠っているっていうのに…。
ケイコ:(弱って)…あの、どちらへお掛けで? こちらは、「ミカンちゃんの人生相談」…。
男 性:(遮り)お袋は眠っている。私は眠れん。どうしたら良いのかと。
ケイコ:もしもし。この番組では、ご相談の前にお名前とご年齢を伺うことに…。
恭 平:清水恭平。65歳。
文 治:まだまだガキ。
ケイコ:では、ご相談を。
恭 平:お袋が、近頃何だか浮き世離れしたことばかり言うのでね。
ケイコ:…浮き世離れ?
恭 平:だって、おかしいとは思いませんか? 私に、しょっちゅうこんなことを言うんだから。
(秋祭り)
恭 平:あー、やっと終わったあ、秋祭り。神輿(みこし)の担ぎ手を集めたり、山車を引っ張る子どもたちにお菓子の景品を渡したり、散らかったゴミを片付けたり。ボランティアも楽じゃないな。
母 親:去年と同じことができるっていうのは、どれほど幸せなことか…。
恭 平:母さんはね、ひなたぼっこをしながら椅子に腰を掛けてただ見ているだけだからいいけれども、こっちはもうクタクタだ。
母 親:お隣の山田さんも、少しは寂しさが紛れただろうねえ。
恭 平:山田さんのおじいちゃんは、何にでも反対をする。町会費を100円値上げしようかって言ったら、烈火のごとく怒っちゃってさ。どれだけみんながイヤな思いをしているか。俺、顔を見るだけでもウンザリだよ。ハァー。
母 親:山田さんはね、去年奥さんを病気で亡くされ、ご自身もお体が弱くって。だから、寂しいんだろうねえ…可哀想だねえ。幸せになるように、あたしたちで祈ってあげなけりゃ。
恭 平:(不思議そうに)…祈る? 俺が? あのインゴウジジイの幸せを?
母 親:そう。祈る。それが、人間てもんじゃないのかねぇ…。
文 治:(ハッとなる)…みんなの幸せを祈る…人間だから…。(感動して)聞かせてください! もっと、もっとあなたのお母さんの話を―。
(食後のお茶を注ぐ音)
母 親:ごちそうさま。今日もおいしかったよ。(お茶を飲む)相手のことを思いやれるのは、人間だけなんだよ。
恭 平:(ため息)またいつものその話か―。
母 親:可哀想だなあ、そう思った途端にね、あたしの胸ん中に神様が生まれてくださるんだよ。
恭 平:俺、約束があるから出掛けるよ(去る)。
母 親:(構わずに)あたしはテレビで戦乱のちまたをさ迷ってる人たちを見たり、飢えで苦しんでいるアフリカの子どもたちのことを知ったりすると、世界中の人たちの「幸せ」を、祈らずにはいられなくなってしまうのよ。そうすると、心が風船みたいにドンドン大きくなっていって…。
文 治:…心が、風船みたいに大きくなっていって…。
母 親:膨らんで。あたしの心の中に「世界」が、スッポリと包まれてしまう…。
文 治:(大感動)心の中に「世界」が?
母 親:…そうして、そこには神様…。
文 治:…神様が!
母 親:いらっしゃるのよ。いつも、いつも一緒なの。神様と…! だから、怖いものは何一つない!
M 短かく
恭 平:(電話で)おかしいとは思いませんか、うちのお袋。
文 治:バカモノ! おかしいと思うあなたの考え方の方がおかしいのだ!
恭 平:ええーッ!
文 治:(つくづくと)素晴らしい! 素晴らしいお母さんだ!
ケイコ:…ミカンちゃん…。
文 治:…世界中の人たちの、「幸せ」を祈る…神様と共に…。どんな悩みも、消えてなくなってしまうなあ…。
ケイコ:ミカンちゃんのお言葉、あたしにはまだよく…。
文 治:自分よりももっともっと苦しんでいる人たちのために祈る!…その温かさが人から人へと伝わってゆく…。神様が喜んでくださってなあ…寄り添ってくださるんじゃよ。悩みなど何一つない世界へと、いざなってくださるんじゃ!
ケイコ:はあ…
文 治:(ズバリと)稽古!
ケイコ:ハ、ハイ!
文 治:難しいからこそ、毎日毎日稽古をするんじゃ! 他人を助け、他人のために祈る稽古をな…。
ケイコ:(しみじみと)…ケイコ。あたしの名はケイコ。ガンバってケイコをします! これからは、他人の幸せを祈り、人を助ける稽古を…!
「ミカンちゃんの人生相談」を、これで終わります。
