ラジオドラマ「晴れのち晴悟郎」第2回「木陰のおかげ」


●ラジオドラマ「晴れのち晴悟郎」
第2回「木陰のおかげ」

金光教放送センター

(バイク走行音)

(ナレーション)
 定年退職後、大型免許を取得してバイクを購入した晴悟郎さんが、まず最初に向かったのはなんと言っても日本一の富士の山。愛車にまたがった晴悟郎さんは、山のふもとの一本道を走っていました。

晴悟郎:わあーッ、風。気持ちがいいなぁ…ああ、喉がかわいた…。あ、大きな木がある。一休みしてゆこう。(バイク止まって、エンジン切る)

(風が吹き抜ける。せみ時雨)

晴悟郎:涼しいなぁ…極楽極楽!

(ナレーション) 晴悟郎さんが大きな木の下で一休みをしていると、向こうから歩いてくる娘さんがいました。娘さんは真っ赤な色の大型バイクを見付けるや、物珍しそうに近寄って来て。

美知子:おじさーん…そのバイク、すごーく格好いいねぇ…。
晴悟郎:うれしいねぇ、君のような女の子に褒めてもらえると。
美知子:もう「女の子」っていう年でもないよ。もうすぐ16。おじさん東京から来たの?
晴悟郎:ああ、そうだよ。
美知子:いいなぁ! …あたしも!
晴悟郎:ん?
美知子:連れてって。東京。ううん、どこでも構わない。どこか遠くへ行ってしまいたいんだ。おじさん、あたしをどこか遠くへ連れてってー!

(ナレーション) 
 娘は「美知子」という名でした。「どこか遠くへ連れてって!」と頼んだその理由を、旅人の晴悟郎さんにならば話しても構わないと考えたのでしょうか、美知子さんは淡々とその理由を語り始めたのでした。

美知子:…実は、今朝早く隣の米作さんが家に来て…。
米 作:(ニワトリの鳴く声)美知子ちゃん、美知子ちゃーん。いるかね?
美知子:あら…米作さん…。おはよう。何か…?
米 作:悪いがね、今年の夏祭りの太鼓たたき、弟さんには遠慮してもらいたいんだ。
美知子:…えっ?
米 作:じつはな村長が、知り合いの、またその知り合いの演歌の歌い手を、東京から呼びたいんだとさ。いつになく大掛かりな祭りになるから。…で、弟さんには…
美知子:幸太がたたく太鼓じゃ、立派な歌い手さんに対して恥ずかしいって言うんですね。
米 作:そ、そういう訳じゃあ。俺はただ村長に言われたことを伝えに来ただけ。じゃ、そういうことで。

(せみ時雨)

美知子:弟の幸太、小さな時に病気に掛かってからちょっと難聴で。音が聞きづらいの。だけど太鼓だけは好きでいつも練習してるの。
晴悟郎:ほーう。
美知子:…母さん、この近くの温泉宿で一生懸命働いてあたしたち姉弟を育ててくれてるの…父さんは、小さなころに死んじゃったし。
晴悟郎:…君…
美知子:いいの。おじさん、話を聞いてくれてありがとう。…あぁ、いい風…。
晴悟郎:…このバイク、乗ってみる?
美知子:ううん、いい。もう…おじさんに話をしたらなんだか急にスッキリしちゃった。

(車が止まる)

幸 太:(ドア開き降りる)姉ちゃーん!
美知子:幸太! どうしたの? 米作さんの車に乗せてもらったりして。
米 作:それが、俺が通り掛かるとうちの前で幸太君、「姉ちゃんがどこかへ行ってしまった」ってションボリしてた。とりあえず乗せて探しに来たんだが。見付かって良かった!
美知子:あたしを心配して…ごめんね、幸太。
米 作:いや、「ごめん」と言って謝らねばならないのはこっちの方なんだ。実はさっき村長から連絡があって、「東京から呼ぶはずの演歌歌手がスケジュールが合わずに断られた」って。だから太鼓、元どおり幸太君に。
美知子:(感激)ええっ、本当なんですか?
米 作:その歌い手の代わりに特設ステージで歌う役、なんなら美知子ちゃんにって。
美知子:え、あたしに? いいんですか?
米 作:「お詫びの印だよ」って、村長が。
美知子:わー、うれしい!
幸 太:姉ちゃん、良かったね。バンザイ! バンザーイ!
美知子:さ、早く帰って練習。太鼓の練習!…ああっ。じゃあたしも頑張って歌のお稽古をしなけりゃ!
米 作:乗った! さぁ早く車に乗った!

(軽トラのドア閉まる)

美知子:おじさんのおかげで元気になれた。ありがとー。さよならー!

(軽トラ去る)

晴悟郎:俺のおかげ? …ちがう…。誰もがみんな重い荷物を背負って生きてる。時には疲れもするさ。…でも、一生懸命に頑張ってるもんには必ず、この木陰で休んでる時みたいに必ずサーッとね、涼しい風が吹いてくるもんなんだよ。ホッと一息ついて、また、ガンバロウ! って…。神様からのご褒美が…よし! 俺も、ガンバロー!

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