●先生のおはなし
「心配から喜びに変わる」

金光教岩倉教会
棚橋貴代恵 先生
豊子さんは、私の奉仕する教会に参拝している60代の女性です。豊子さんのご主人は40年前に、2歳の男の子1人を残して亡くなられました。ご主人のご葬儀の時、教会長先生は泣きじゃくる豊子さんに、「これからは神様を杖にして、ご主人の御霊様にお願いしながらお子さんを育てなさいよ」と優しい言葉を掛けて慰めました。女手一つで子どもを育てるのは大変なことでしたが、その息子さんは現在42歳となり、母子2人で暮らしています。
その息子さんは就職して間もなく、深刻なうつ病になりました。再発を繰り返しながらもおかげを頂いて回復し、今は再就職も出来ましたが、食事も洗濯も何から何まで親任せとなりました。ほとんど部屋に引きこもり、あいさつも会話もなく、食事も別々という状態です。ですから、豊子さんは教会に参拝する度に息子さんの末の安心を願っていました。
そんなある日、豊子さんたちの自宅マンションの天井から水漏れが起こりました。上の階の住人に聞いても、「うちは知りません」と全く関わってもらえなかったので、豊子さんはマンションの管理組合に連絡しました。すると保険で修理するならば、入居者一人ひとりに事情を説明して回り、全員の同意書をそろえねばならないと言われ、業者も豊子さんが探さねばなりませんでした。豊子さんは心身共に疲れ果て、こんなことはもうゴメンだと思ったその時に、ふと新築マンションの広告が目に留まり、早速にマンション購入の仮契約をしてしまいました。ところが時間が経つにつれて、「今のマンションが売れなかったら、新居の支払いはどうなるのだろう? 生活は出来るだろうか?」と気になり始め、夜も眠れなくなっていきました。食欲もなくなり、日に日に痩せていくので病院へ行くと、うつ病だと言われました。起きることも寝ることもつらく、人と会うと思っただけで動悸がします。それで豊子さんは教会に参拝し、病気の回復と、新居が無事に購入出来るよう神様に願いました。
私は豊子さんに向かって、「何もかも自分の力でしようとして、心配を抱え込んで病気にまでなってしまったのです。これからは、一つひとつ神様にお願いして事を進めましょう。『大変な目をしたから早く引っ越したい。後に住む人のことは知らない』という心では、神様は喜ばれません。これまで住まわせて頂いた感謝の心と、後に住む人が安心して生活出来るように祈る心で、水漏れ修理、売却、新居購入と順々に進むように願いましょう」と話をし、豊子さんのことを祈りました。
水漏れ修理の日が来ました。豊子さんから、「朝から動悸がしてつらいです。修理が無事に済みますように」と電話があり、終わったら、「修理の人が来たら不思議に動悸が収まり、神様に守られていると感じました」と安堵した声でお礼の電話がありました。このように新居の内装、水回りなどすべて神様にお願いし、お礼を申しながら新居購入へと手続きが進んでいきました。
豊子さんは、ここまで手続きを進めることが出来たお礼にと教会に参ってこられました。
豊子さんは目に涙を浮かべて、「うつ病になり、当たり前に出来たことが出来なくなって、自分の力ではなく、ずっと神様に守られていたから生活が出来てきたのだと気付きました」と言われ、さらに、「実は、私がうつであることを息子に話せません。私がうつだと知ったら、動揺して息子がまたうつになるのではないかと不安なんです」と言われました。私は、「病気について話すか話さないかは神様にお任せしましょう。この新居の購入を通して、息子さんの生活意識が変わるようにお願いしましょう」と話しました。
やがて、その後、晴々とした表情で豊子さんが教会に参拝されました。「息子が薬を飲む私を偶然見掛けて、『何の薬なのか?』と聞くので、恐る恐る、『水漏れの頃からうつになってずっと調子が悪い』と話すと、息子が、『僕の時より軽いから大丈夫だよ』と言って家事を手伝うようになってくれました。日々神様にお礼を申していると、次第に薬を飲み忘れるくらい体調が良くなり、薬の服用を止めることが出来ました」と感激しながらお礼を言われました。
更に、一番心配していた自宅の売却も不動産の人が思う以上の額を提示してくれました。すぐに多数の問い合わせがあり、あっという間に売却出来、本契約も無事に済み、新居を共同名義にしたので、息子さんが生活に責任を持つようになりました。引っ越しの日、豊子さんは家に祭ってある神様に、親子そろってお礼参りをし、いの一番に神様を新居にお祭りされました。
一段落して、引っ越しのお礼と併せて、ご主人が亡くなって40年の御霊祭りが仕えられました。今まで給料を自分のためだけに使っていた息子さんが、お父さんのお祭りに使って欲しいと、初めて出してくれた費用でお祭りの準備をするうちに、途絶えていた親子の会話が自然に戻り、ありがたいお祭りとなりました。
豊子さんは災難が降りかかり、難儀のただ中にあっても、神様に心を向けていきました。そうすることで、心配していたことがすべてありがたいものに変わっていきました。現在は親子そろって喜びの生活を送っています。その表情はずっと神様が見守って下さっているという安心に満ちています。