足が痛い!


●先生のおはなし
「足が痛い!」

金光教豊橋とよはし教会
安達吉浩あだちよしひろ 先生


 秋子あきこさんは、現在90歳を過ぎても教会への朝参りを欠かしたことのない、明るく元気なおばあさんです。
 しかし、その秋子さんが10年ほど前のある時期、教会にお参りしても、「先生、毎晩毎晩がとてもつらいです」と泣き言ばかりが口をついて出てしまう、そんなつらい日々を送っていたことがありました。
 そのころの秋子さんは、夜中に寝ていると突然両足の膝から下に痙攣けいれんが起こり、ビーンッ、ビーンッと足首から下が跳ね上がるように同じ動きを繰り返し、自分ではどうしようもない気持ちの悪い痛みに襲われていました。初めのうちは、痙攣もたまに起こる程度で、すぐに治まっていたので、あまり気にしないようにしていましたが、月日が経つにつれて、少しずつ起こる日が増えていきました。
 病院へ行くのがあまり好きではない秋子さんも、やはり気になって病院で診察を受け、いろいろと検査をしましたが、医師からは、「その年では、何か体に故障が出てくるもんです。異常はありませんから、そのうち治まるでしょう」と言われ、根本的な原因は、分かりませんでした。
 秋子さんは、「原因が分からないのなら、なおのこと神様に治して頂こう」と腹を決め、毎晩寝る前に、「どうか神様、今日は痙攣が起こりませんように」とお願いしてから寝るようにしました。
 ところが、夜中の2時頃になると、「あっ! 来たっ」と起こる前に目が覚めて、次の瞬間ビーンッ、ビーンッと痙攣が始まるのです。そして、治まってもなかなか寝付けないまま朝を迎えていました。
 そして半年近くが経ちました。そのころには、ほぼ毎日痙攣が起こるようになり、日に日に秋子さんから笑顔が消えて行きました。寝不足のために顔も青白くなり、精神的にもどんどん落ち込んでいきました。教会でも、「今日は、痙攣が起きませんように。ゆっくり休ませて頂けますように」とお願いをされ、私も秋子さんを一生懸命励ましながら、一緒に神様にお願いをさせて頂きました。
 しかし、なかなか痙攣は治まる気配がなく、それどころか徐々に痙攣の時間も長くなり、とうとう教会でも、「先生、こんなつらい日々が続くんでしたら、この年ですから、早く神様お迎えに来て下さいとお願いしたいです…」と口にするようになってしまい、いつもの元気な姿は見る影もありませんでした。
 それから数カ月経ったある夏の日、教会の毎月のお祭りに秋子さんが、珍しく一人でお参りされました。いつも朝参りしている方と一緒に車で参拝されるので、「今日はお一人ですか?」と声を掛けると、「そうなんです。あの方が用事で参拝できないと言うから、一人で歩いてきました」と額の汗を拭いながら話されるので、「えっ!あの距離を一人で歩いて来たんですか?」と少し驚いて聞き返しました。秋子さんの家から教会まで約2キロもあります。「はい、そうです。途中の道が狭いので自転車や車が側を通りますからヒヤヒヤしました」と少し笑みをこぼしながら言われました。
 「よく一人で歩いてこれたな。途中で何かあったら…」と思った瞬間私は、「はっ!」と気付かされ、すぐに、「秋子さん、痙攣が起こる時間は、いつも同じですか?」と尋ねました。「はい、だいたい夜中の2時ごろと決まってます」「じゃあ、その時間以外に痙攣が起こったことがありますか?」「いいえ、それは一度もありません。夜中に起こるから、寝れずにしんどいんです」。私はその言葉を聞いて、「秋子さん、もしかしたら、今まですごく神様に守られてきたんじゃないでしょうか」と言いますと、秋子さんは少し困惑した表情を浮かべました。
 続けて、「考えてみて下さい、今日ここまで歩いてくる途中、そんな狭い道で、もし痙攣が起こったらどうなってました? 命に関わるようなこともあったかもしれません。もし昼間に痙攣が起こったら、怖くて家から一歩も出れなくなります。家の中でも不安です。でも、一度も痙攣が起こったことがない。それは、秋子さんを神様が守っているとしか思えませんよ」「そう言われれば、昼間にどんなに無理をしても、痙攣のことを心配したことがありません」。秋子さんもだんだん話が分かってきたのか、少し表情が変わってきました。
 「秋子さん、長い間あなたの言うことをよく聞いてくれたその体に感謝することを、神様は教えて下さったんじゃないでしょうか」。秋子さんは、大きくうなずいて、「痙攣がつらいということばかり気にしていましたが、昼間元気なことをすっかり忘れていました」と反省しながらも何か一筋の光を見付けたような表情で話されました。
 「今日から神様に痙攣がなくなるお願いよりも、両足をさすりながらいつもありがとうございます、とお礼を言って休むようにしましょう」。秋子さんは、「はい」と元気に返事をされました。
 翌朝、教会に入って来るなり、「先生! 気付いたら朝でした。こんなにぐっすり寝たのは、ほんとに久しぶりです。ありがとうございます」と以前の明るい笑顔を取り戻していました。その日以来、秋子さんに痙攣が起こることは一度もなく、今も元気に教会へ朝参りを続けておられます。
 目の前の体の痛みやつらさに、ついつい心を奪われてしまう私たちですが、この秋子さんの体験を通して、今まで自分の無理をいつも聞いてくれた、この自分の体への感謝といたわりの気持ちをまず思い出せるような生き方になっていきたいと思います。

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