心で人を殺さないように


●先生のおはなし
「心で人を殺さないように」

金光教北九州八幡きたきゅうしゅうやはた教会
野中正幸のなかまさゆき 先生


 私たちは、日々、様々な人との関わり合いの中で生かされています。共に声を掛け合い、協力し合い、助け合う一方で、時に衝突したり、怒りを向けたり、ということも多々起こります。
 これは私が会社で働いていた時の話です。私は、音楽CDを扱うお店で働いていました。
 ある日のこと、一人の従業員が慌てて走り寄り、こう言います。
 「お客様がとても怒ってます、対応して下さい」
 「ああ、嫌だなあ」と思いながら、行ってみると大変怒った様子で、「注文した商品が今日届くって言われたから、遠い所わざわざ来たのに、商品が無いじゃないか。忙しいのにわざわざここまで来たんだぞ!」と言われます。従業員に詳しく事情を聞くと、「おそらく今日届くと思いますが、確実とは言えないので、届いたら電話でご連絡させてもらいます」とお客様に事前に伝えていたようでしたが、まだ連絡をしていないうちに、お客様が勝手に来られたようでした。
 私は「入荷したらご連絡しますとお伝えしたそうですが」とお客様にお伝えしました。すると、「いや、今日届くと言っただろう。遠い所来たんだぞ、忙しいんだ、どうしてくれるんだ!」と、お客様は怒鳴られます。
 とにかくこちらの事情を説明し続けるのですが、全く聞いてもらえません。お客様の怒りが私にも伝染して、私もイライラ。「そんなこと言ったってしょうがないだろう、分かってくれよ。こっちの方が正論だろう。忙しいんだぞ」と心の中で舌打ちし続けるようなことになってしまいました。しまいには、担当した従業員にも腹が立ってきて、「何でこんな目に遭わないといけないのか、他にもやることはたくさんあるんだぞ」と不満が湧き起こります。
 堂々巡りでどうしようもなく、一旦奥へ下がりました。
 「神様どうさせてもらえばよいでしょうか」と心の中で祈りながら、高まる気持ちを落ち着かせ、一度状況を整理しようとしました。
 忙しい生活の中、わざわざ時間を割いて、遠い所からここまで来店された。お店の事情を説明し、主張し続けるのではなく、お客様の思いに添うようにさせてもらわなくてはならない。こちらは悪くないと、正論を主張するのではなく、まずはお客様の心を受け止めさせて頂くこと。じっくりと理解し、共感することからスタートすることが大切なのではないか。しっかり時間を掛けてお客様の話を聴かせてもらう、その思いを聴かせて頂く、それが大事なのではないか。そもそも、無数に存在するお店の中から、お客様がこのお店を利用して下さっていることにお礼の心を持っていただろうか? そのように思い直して、イライラを静めてお客様の所へ戻りました。
 忙しいところ来て頂いたこと、いつもお店を利用して頂いていることへのお礼。お客様からご指摘頂いて、ここから業務改善を目指すこと、そのようなことを丁重にお伝えし、改めてお客様のお話を聞かせて頂きました。
 非常に時間は掛かりましたが、最終的には「分かった。しょうがない、気を付けろよ。ちゃんと教育しろよ、また来るからな」と言われお帰りになりました。ホッとしました。
 後日、無事に商品をお買い上げ頂き、その後もお店を利用し続けて下さいました。来店時には、声を掛けて下さるようにもなりました。心と心がつながった気がし、今となっては大変有り難い出来事です。正論を振りかざすのではなく、相手の心をしっかりと受け止める、こちらのお礼や感謝の心を現すことの大切さに気付かされました。
 毎日働いていると、来店される方を一つにまとめてお客様を見てしまいますが、お一人おひとり、様々に違った思い、経験、生きられた環境があります。そういったお一人おひとりとの出会いを頂いているんだということに気付かされ、その出会いを大切にさせて頂きたいと思いました。
 それから数年後、私は金光教の教師となり、ただ今は教会で奉仕しております。時折、会社員時代のことを思い出します。どうしても目の前の業務に追われ、効率的に仕事を進めようとするあまり、人を軽く見たり、温かい心、思いやりの心を失い、大切なことが見えなくなったり、不満が高まり、イライラが湧き起こってきたりということもありました。
 そんな時、神様に心を向けて、心落ち着けて、人を祈りながら、もつれやイライラをほどいていくことが大事なことだなあと思います。
 金光教の教えに「人を殺さないといっても、心で人を殺すのが重大な罪である」というものがあります。
 心の中で人を殺すということは、目には見えないことですが、その心を神様が見ていらっしゃいます。相手が悪くても、心の中で悪く言うのではなく、「どうぞその方が心を改めて良い方へいきますように、私の心も一緒に良い方へいかせてもらえますように」と、神様にお願いし、行動することを教えられています。
 目まぐるしく変化し、忙しい現代。毎日の生活の中で、人を受け止め、共に祈り合う温かい心、神様と人との輪が、大きく広がっていくことを願い、大切にしてまいりたいと思います。

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