ラジオドラマ「LIFE」第2回「小学生」


●ラジオドラマ「LIFE」
第2回「小学生」

金光教放送センター


登場人物
あきら (小学5年)
・父
・康平


(玄関戸の開け閉め)

 ただいま。
あきら お父ちゃんお帰り。
 あきら、どないしたんや? 目が真っ赤っかやぞ、泣いてたんか?
あきら …。
 何かあったんか?
あきら あの…。
 なんや。
あきら ぼく、明日学校行ったら康平君を殴ろうと思てるんや。お父ちゃん、先生から呼び出されると思うで。けどぼくのこと怒らんといてな。
 おー、穏やかやないな、一体どういう訳や?
あきら ぼくの誕生日にお父ちゃんに買うてもろた自転車。
 おお、お前がいつもピカピカに磨いて大事にしてくれてるやつやな?
あきら それをな、昨日学校帰りにここまで一緒に歩いて来た康平君が。

康平の声 ぼく、学校に忘れ物してしもた。取りに行きたいから、この自転車貸してえな。
あきら ぼく、ほんまは貸すの嫌やったんや。康平君とはそんなに仲ええことないし、そやけど…。
康平の声 すぐに返しに来るからええやん!

あきら そう言うたから、断りきれへんかったんや。
 ところが、返してくれへんかった。そうやろ。
あきら うん、そんで今日学校で康平君に聞いたら、何て言うたと思う?
 もう1日貸してくれ、やろ?
あきら (涙声)違うよ!

康平の声 ああ、自転車、学校のそばのコンビニに置いてきてしもた。

あきら 絶対に許せへん! あいつ、ぼくとはそんなに仲良しやないし、ぼくの物はどうなってもええと思てるんや! 明日殴ってやる!
 気持ちは分かるけどなあ、暴力はいかん。もしかすると康平君は、ちょっと悪いことをして、あきらの気を引こうとしたんやないか? 素直に「友達になってよ」と言えんから、そんなことをしたんと違うか?
あきら そやかて…ぼくは…納得いかへん。

(小学校のノイズ・チャイム音など)

あきら いつ殴ってやろ。朝からずーっとチャンスを狙うてた。掃除当番が終わったらやったろか。…あれ、よう見てたら、あいつずーっと一人ぼっちや。友達がないんやろか…。

康平 (突然)あきら君。
あきら あ、え、なんや?
康平 君の大事な自転車、ほったらかしにしたのに、なんで黙ってるんや。先生に言いつけへんのか?
あきら それは…、自転車貸すのは嫌やて、はっきり言えへんかったぼくも悪いんや。

あきら なんでこんなこと言うてしもたんやろ? 殴るつもりやったのに…。

康平 ごめん、ほんまにごめん。
あきら もうええ。
康平 これ、自転車の鍵、返すわ。
あきら うん。
康平 帰り、取りに行ってな。

 そうか、良かったやないか。
あきら ぼく、今日担任の先生に呼ばれたんや。前から康平君は、友達に物貸してもろては、捨ててしもたり、ほったらかしにする癖があってんて。
 へえー。
あきら そのたんびに相手の子とトラブルになって、先生からお母さんに連絡が行くねんて。そしたらお母さんは頭に来て、康平君をアザが出来るほどきつう叩くんやって。
 ふーん。
あきら 今度のこと、康平君、自分から先生のところに行って言うたんやて。

康平の声 先生、ぼくがあきら君の大事な自転車をほったらかしにしたのに、あきら君は何も言わへんかったし、仕返しもせえへんかったんです。おまけにあいつは何も悪いことないのに「ぼくも悪い」て言うたんです。そんなことぼくに言うてくれるやつは、今まで誰もおらへんかった。そやから今日は自分から報告に来ました。先生、今までごめんなさい。

 康平君も勇気のある子やないか。
あきら それでな、ぼく、お父ちゃんの言うたことが当たってるんやないかて思たんや。
 ん?
あきら 言うたやろ。「友達になってよ」と言えんと、そんなことをする子がおるて。お父ちゃんすごいなあ。
 ハハ…。
あきら 康平君は今まで一人ぼっちで、寂しかったんかも知れんなあ。
 そうや。よう気がついた。偉いぞ。

(子ども達の草野球の声・歓声)

あきら あんなとこで、タケシたちが野球やってる。

(カーン。子どもたちの歓声)

あきら あ、一郎がホームラン打った。すごい! なあ康平君、ぼくらも一緒に仲間に入れてもらおうや。
康平 でもー…。
あきら かまへんかまへん、行こう。(遠くへ)タケシー、ぼくらも入れてくれへんかー! ほらー手え振ってる。早よ行こ。
康平 (元気に)うん。

(二人走り出す)

康平 (息・フウフウ)あきら君、そんなに早く走らんといて!

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