白いワンピース


●信者さんのおはなし
「白いワンピース」

香川県
金光教牟礼むれ教会
渡辺尚美わたなべなおみ さん


 おはようございます。渡辺尚美と申します。
 私は、現在、フィリピンの「カンルンガン・サ・エルマ」という民間の児童養護施設で活動しています。こちらでの生活も早7年が過ぎたものの、やはり、「外国での暮らし」という無意識の緊張感を持った生活は、想像以上に精神的な疲れをもたらすものです。
 そんな疲れを取り除き、いつも私の心を穏やかにしてくれるのが神様への祈りです。ここフィリピンでは、祈りは、ごく自然なものです。食事の時はもちろん、会議の前後や乗り物の中で、また、悩みを抱えている人がいれば、人目をはばかることなく、その場で静かに祈りを捧げます。同時に、祈りは人への優しさとして現されるのでしょう。困っている人にさっと手を差し伸べたり、当然のように席を譲る姿などは、よく見かけるものです。
 しかし、このような社会でも、悲しい事件は絶えません。特に、子どもが犠牲となり、助けを求めてやって来るのが、現在、私が活動しているような施設です。多くは親たちに仕事がなく、子どもが労働を強いられたり、人身売買の犠牲となるケース、アルコールや薬物中毒に陥った養育者による虐待など、心身ともに深く傷ついた子どもたちが保護されています。また、虐待から逃れるため路上に飛び出し、いわゆるストリートチルドレンとして保護されたケースもあります。
 私たちの施設では、衣食住の整った安心で健康的な生活や教育を提供するとともに、カウンセリングや家庭訪問などを行い、心のケアと問題解決に努めながら、養育者との関係修復に日々励んでいます。私自身は、子どもたちへの異文化教育の他、日本の方々へ状況を知っていただくためのスタディツアーの実施、運営資金の協力を求める活動などを担当しています。
 かつて、“子どもは真っ白なカンバス”と表現した学生ボランティアがいました。その言葉を借りるなら、施設にやって来る子どもたちは“真っ黒なカンバス”でしょう。大人や社会の事情により、彼らが選ばない色を塗りたくられたカンバス。それを子ども自身が自ら選んだ色に塗り直す作業に、手を差し伸べていくのが私たちの仕事であり、ここには神様の働きが不可欠となります。
 私は金光教を信仰していますが、フィリピンの人々の多くはキリスト教を信仰しています。しかし、子どもたちの幸せを祈る心に違いはなく、神様と子どもたちが出会うことは、とても大切なことだと感じています。
 施設にリサという13 歳の女の子がいます。リサと彼女の母親は、路上で倒れているところを保護されましたが、母親は間もなく亡くなりました。餓死でした。しかし、自分の空腹は抑えてでも、育ち盛りの我が子には食べさせていたのでしょう。リサはいたって健康でした。
 その後、身寄りのないリサは施設で生活することになりましたが、早速、本来の気の強さを発揮。当時は誰彼ともなく、よくけんかしていたものでした。
 ところが、彼女には一つ不思議なことがありました。施設に来て以来、服を着替えようとしないのです。フリルの付いた白いワンピース。かなり汚れが目立ってきて、着替えるように言っても、そのままでいます。
 実は、そのワンピースこそ、彼女と母親を繋ぐ唯一の持ち物だったのです。その年の誕生日に母親が買ってくれたのでした。幼かったリサには、まだ、“死”というものが何を意味しているのか、うまく理解できなかったのでしょう。いつも一緒にいてくれた母親の温もりを恋しがるようにワンピースを着続けていました。
 そんなある日のことです。お祈りの最中、それまで元気に歌い踊っていたリサが、突然、座り込み、顔を埋めて動かなくなりました。お祈りの後、そっと近づいて抱きしめると、抑えきれなくなったのか声を上げて泣き出しました。
 その時、彼女は悟ったのでした。あの日、母親は自分の隣でただ眠っていた訳ではないということを。私は、神様がリサを包み込み、お話しして下さったのだと感じました。「リサ、良かったね。もう、一人じゃないよ、神様が『いつも一緒だよ』って言って下さったんだね。よく頑張ったね…」。
 リサを抱きしめながら、私も一緒に泣いていました。
 さまざまな経験を持つ子どもたちにとって、掛け替えのない存在としてこの世に生を授け、いつも幸せを願っていて下さる神様の存在を知る意味は大きいのです。深く傷ついた心の痛みを和らげるとともに、自らを再生させ、新たなステップを踏み出していく力となります。リサの場合、それは母親の“死”を受け入れることでした。母親以外の“よりどころ”を知り得なかった彼女にとって、神様は、自分を温かく見守り、支えてくれる大きな存在になりました。
 今、リサは小学校に通っています。気の強さは相変らずですが、仲間とむやみにけんかすることもなくなりました。そんな彼女に将来の夢を聞いてみました。
 「夢は2つあるの。施設のスタッフ、それから、お医者さんにもなりたい」と、迷いのない目で答えるリサ。いずれの夢も、彼女が過ごしてきた憂いの日々の果てにようやく見つけたものです。
 「でも、神様がかなえて下さるのは、一つだけだけどね…」。そう続けると、大きな口を開けてうれしそうに笑いました。
 今後も、神様が私を必要とされ、お遣い下さる限り、現在の活動を続けていくつもりです。私の祈りが子どもたちの心に届き、傷ついた心が少しでも元気になってくれることを願いながら…

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