●ラジオドラマ「いろは団地B棟」
第2回「どちらもかわいい」

金光教放送センター
登場人物
・有田 さわ (無職)75歳
・吉村 あかね (小学校5年生)11歳
・吉村 健一 (小学校一年生・あかねの弟)7歳
・吉村 初江 (あかね・健一の母)30代
・光本 (団地の主婦)50代
・大竹 (団地の住民・工場勤務、夜勤)30代
・キン (黒猫)年齢不詳
(往来の物音)
さ わ:あらあら。よくもこんなにたくさんの物を捨てられるわねぇ。洋服におもちゃに…フライパン!
(ナレーション:キン)
ゴロニャーン。おいらは、いろは団地に住みつく野良猫のキン。孫娘のことで、隣に住んでいる保さんに助けてもらったさわさんは、今度は、誰かに喜んでもらえるようなことを自分でもしなければと思い立ち、団地内の道路や広場のゴミ置き場の掃除を始めたのだった。
さ わ:あんたたち、そのビニール袋、何?…どこに捨てようかって、迷ってたんでしょ!
健 一:そ、そんなことはないよ。ね、お姉ちゃん…。
あかね:…う、うん…。
さ わ:(あかねに)あんた、お姉ちゃんならば弟に、「ゴミはゴミの日に、ゴミ置き場に!」って、よく教えてあげなけりゃ駄目じゃないの。
あかね:ゴミなんかじゃない!ピーちゃんよ。さっきまでは生きていたんだもの!
さ わ:…え?
(ナレーション:キン)
「ゴミなんかじゃない!」と叫んだのは、いろは団地B棟の1階に住む吉村あかねちゃん。小学校5年生。弟の健一君が持っているビニールの袋の中に入れられていたのは死んだインコ――。
あかね:(ヒステリックに)ピーちゃん、ピーちゃん。お母さん、お母さんのせいなんだよ。インコのピーちゃんが死んじゃったのは。
初 江:あんたがエサやりを忘れたからでしょ! 人のせいにしないの。
あかね:お母さんが、いつもエサをやってくれていたじゃないの!
初 江:出来るわけがないでしょ! 今はパートで忙しくて、もうクタクタなんだから。
あかね:そんなに仕事で疲れるのならば辞めたらいいじゃないの!
初 江:辞められるワケないでしょ! お父さんがリストラになっちゃったんだから。
健 一:ピーチャン、ピーチャーン!(泣く)
――間――
さ わ:…そう。じゃあそのインコは、捨てるんじゃなくてお墓を作って埋めておやりなさい。
あかね:…お墓?
さ わ:あんたたちの所、1階だからお庭があるでしょ、お庭にお墓を作りなさい。
あかね:お庭にお墓!
健 一:そうすればピーチャンも寂しくないね!
あかね:ありがとう、おばあさん。
(カラスの鳴き声)
光 本:ちょっと待ったぁ!
大 竹:な、何ですか?
光 本:やっぱり大竹さん、あなただったのね! ゴミを今時分に捨てるのは。
大 竹:(無視して)失礼します!(去りかける)。
光 本:逃げるのね! お待ちなさいったら!
大 竹:痛いなあ、放して! 放して下さいよー!
さ わ:光本さんに大竹さん。2人ともおやめなさーい! みっともない。
光 本:だってさわさん、ゴミの日は明日よ。それを、この人ったらいつも前の日の夕方に出 すんだから。
大 竹:今から仕事に行くんです。帰りは明日のお昼。ゴミは今しか出せないんですよ。
光 本:(カーッとして)だからってルールはルールよ! みんなが迷惑しているんだから!
さ わ: 光本さん…まあまあまあ…(と、止めに入り)あたしにちょうだい。
光本 大竹:…えっ?
さ わ:そのゴミ袋。あたしが明日の朝まで預かっておくから。
大 竹:えっ、い、いいんですかぁ?
さ わ:それよりも、仕事に遅れたら大変。さ、早く、早くお出掛けなさい。
大 竹:…ハ、ハイ。そ、それじゃあ…(走り去る)。
光 本:(感心して)さわさん…。
さ わ:実はね、この前、あたしの孫が…。
光 本:なっちゃんが?
さ わ:行方不明になったんだけれども、その時にあたしは、ある人から助けられたのよ。 その人がこんなふうに言っていた。「どうしてか分からないけど、ふっとそんな気になったって…」あたしはその時、その人の心のなかに神様が生まれた…って思った…。
光 本:…心の中に、神様が…?
さ わ:あたしの心の中にも、今、神様が生まれたのかしら…だって、こんなふうに思えちゃったんですもの、両方がかわいいって…。
光 本:…両方がかわいい? どういうことなの? あたしにはサッパリ…。
さ わ:ゴミ置き場をいつも清潔にしておかなければ気が済まないあなたのことも、夜勤業務で、仕方がなく前の日の夕方にゴミを出してしまうあの人のことも、気持ちが分かる…。
光 本:両方がかわいいか。なるほどそう考えれば争い事は無くなるわねえ。
キ ン:(近寄る)ゴロ、ゴロニャーン…
さ わ:キンちゃんかい。…おなか、すいているんだろう。…さ、付いておいで! エサを上げるから…。
キ ン:神様、ありがとう…ニャーン。ゴロニャーン…。
