ラジオドラマ「晴れのち晴悟郎」第6回「いいとこメガネ」


●ラジオドラマ「晴れのち晴悟郎」
第6回「いいとこメガネ」

金光教放送センター

(船のエンジン音。波、カモメ)

(アナウンス)
 (スピーカーから)皆様、本船は間もなく伊豆いず大島、岡田おかた港に着岸いたします。長らくのご乗船、お疲れ様でした。

晴悟郎:風もなく海も穏やか。船も揺れなかったし。最高!

(ナレーション)
 このところ髪の毛が薄くなり心配していた晴悟郎さんは、「育毛には椿油がよく効く」という記事を読み、椿油の産地として名高い伊豆の大島への旅を思い立ちました。どうせ尋ねるのならばと晴悟郎さんは3月半ばの椿祭りの日を選んだのでした。

(大島太鼓。人々の声、さんざめいて)

晴悟郎:やあ! にぎやかだなあ。あれは大島太鼓ってやつか。お? あちこちにテントを張って名産品を売ってる。さて、どの店で買おうか…。
晴 美:いらっしゃいませ。
晴悟郎:椿油、いいのがありますか?
晴 美:みんな最高ですよ。
晴悟郎:ほぉ、椿の実で作ったブローチなんかもあるんだね。
晴 美:ええ、クサヤも、明日葉あしたばも、島の特産品なんですよ。どれを差し上げましょう。
晴悟郎:椿油を一瓶下さい。
晴 美:ありがとうございます。はい、どうぞ。
晴悟郎:じゃ、お代。
晴 美:どうも。…あら、お客さーん。サングラスをお忘れに! …行っちゃった…。
     ま、いいか。あとで取りにくるかも。
淑 子:(店内に入ってくる)…晴美さん…。居た居た、お宅を訪ねたら留守だったから。ここでバイトしてるって聞いてたから寄ってみた。良かった、会えて…。
晴 美:・・淑子さん、今日は何か…
淑 子:謝恩会のことよ。卒業式まで後もう1週間しかないのよ。
晴 美:打ち合わせならばもうこの前…。
淑 子:それが少し変わっちゃって…。
晴 美:…えッ?
淑 子:あのね、東京から偉ーい先生が来ることが決まって、私は船までお送りする係になっちゃったの。だから司会はあなたに。
晴 美:ええーっ、そ、そんな!
淑 子:息子たちがお世話になった中学校じゃないの。
晴 美:あの、人前で話すのがあたしは大の苦手で…。
淑 子:「苦手」を「得意」に変えるチャンスよ。じゃ、ヨロシクー!(と去る)
晴 美:ああ、ちょっ、ちょっと、ま、待って! …あーあ、淑子さんっていつも一方的で他人ひとの気持ちを考えることが少しもないんだから。大嫌い!
酔っ払い:(OFF――ON)…姉ちゃん、コレ、すぐに焼いてくんない?
晴 美:ええ、クサヤをここで?
酔っ払い:腹が減っちゃって。金、少し多めに払うからいいだろう、姉ちゃん…(晴美にしなだれかかる)
晴 美:で、出来ません。飲み屋じゃないんですから。(酔っぱらいがエヘヘと晴美の肩を抱く)いやらしい。止めて下さーい!(酔っぱらいを突き倒す)
酔っ払い:(倒れる)イ、イテテテテ…! 何すんだ。俺は客だぞ!
晴 美:だって、お客さんが…。
酔っ払い:血が出てる! 転んだ拍子に切れたんだ。病院代をよこせー!
淑 子:晴美さーん。これ、渡すのすっかり忘れちゃってた。(酔っぱらいを見て)どうしたの?
酔っ払い:イテテテ。
晴 美:(弱りきって)…淑子さん…。
淑 子:(察して)ああ、おじさん。足が痛いの? …それじゃ、(とバックの中から軟膏なんこうを出す)これを塗って。ばんそうこうも貼って…。「痛いの痛いの飛んでゆけー!」…ほら、もう治ったでしょう!
酔っ払い:な、治ったような…
淑 子:私ね、今、おいしいパンを持ってるの。おじさん、食べて。あっ、椿祭りのパレードがそろそろ始まるわ。あのね、奇麗なあんこさんたちが、そろって踊るのよ。おじさんも早く、早く!
酔っ払い:このパンを俺に?(パン食べる モグモグ)うめえ! おねえさんも一緒に行ってくれるのかい?
淑 子:お姉さん? ええ。行きましょう、行きましょう。(と酔っ払いと共に出て行き掛けて)あっ、晴美さん、これ、司会の時の原稿よ。読みさえすりゃいいんだから。じゃ。(と去ってゆく)
晴 美:…淑子さん、悪い人じゃなかったんだ…
晴悟郎:…あのう…。
晴 美:あら、さっきの…。
晴悟郎:サングラス、ここに置き忘れてませんでしたか?
晴 美:これですね! ハイ、どうぞ。
晴悟郎:良かった! これが無いとどうもね。…あっ…、「いいとこメガネ」って、知ってます?
晴 美:知りませんけど、お客さんのそのサングラスが…?
晴悟郎:違う。違うけれどもお袋がよく言ってたメガネのことを思い出しちゃって…。そのメガネを掛けていると他人のいいところばっかりが見える…
晴 美:そのメガネ、あたしにちょっと掛けさせて下さい。
(メガネ掛ける。宙に向かい呼び掛ける)淑子さーん! あなたって、頭脳明せきで臨機応変で、結構情け深くって、テキパキと事を運ぶスーパーレディーよ!…(メガネを外す)お客さん、本当でした!
晴悟郎:このメガネがそうだっていうワケじゃあ…。
晴 美:これからずっと掛けます。「いいとこメガネ」を心の中に…。本当にどうもありがとうございました!
晴悟郎:…心の中に…か。それならば俺にも出来る! うん、大島の椿油を使うたびに掛けるとしよう! 「いいとこメガネ」を…。ハハハッ、じゃ、椿祭りを楽しんできまーす。
晴 美:行ってらっしゃーい!

(バイクのエンジン音)

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