●ラジオドラマ「ミカンちゃんのラジオ人生相談」
第3回「秘密のお金」

金光教放送センター
登場人物
・青柳 文治 (88歳) 静岡県のミカン農家の隠居 愛称ミカンちゃん
・原田ケイコ (33歳) とあるラジオ局のアナウンサー
・トク・メイコ(匿名)(51歳) 呉服店経営者の妻
(電話のベル音)
ケイコ:ようやく春風、吹いてきましたねー。では、「ミカンちゃんの人生相談」を早速始めましょう。
ケイコ:(受話器取り)ハイ、こちら「ミカンちゃんの人生相談」です。
女 性:もしもし。よろしくお願いします。
ケイコ:はい。ではまず初めにお名前とお年を言ってください。
女 性:年齢は51歳。できれば、「匿名」で―。
ケイコ:ご趣味は?
ケイコ:では匿名希望の「トク・メイコさん」ということで。ご相談は?
メイコ:はい。実は、私、近頃、夜寝ていると、隣りで寝ている主人が刑事に。
文治 ケイコ:ケイジ?
メイコ:警察の刑事さんに思えちゃって。それで困ってご相談を。
文 治:言ってる意味がサッパリ分からん。
ケイコ:メイコさん、もう少し具体的に…。
メイコ:はい…実は、私、お金が貯まり過ぎて、それで心配になっちゃいまして…。
文 治:金がないという相談ならば分かるのだが…。
メイコ:私の主人は、呉服屋を営んでおります。私は、経理の方を手伝っているのですが…。
文 治:共働きなんじゃな。それで?
メイコ:主人とは15も年齢が離れておりまして。その上に子どもも主人の親戚から養子に迎え入れたというような訳でして。
文 治:跡継ぎもいて何よりだ。
メイコ:何よりなものですか。老後のことを考えると、もう心配で、不安で…。それで、ヘソクリ…毎日の売り上げの中から…。それが貯まり過ぎて。主人にいつバレるかと思うと恐ろしくて夜も眠れなくなってしまったんです。
文 治:…フム。恐いのはご主人ではなくて(ズバリと)あなたの「心配心」なのだ。
メイコ:…私の…私の「心配心」?
文 治:「心配心」は、恐ろしいぞ。いつの間にやら仲間を増やして、体中をむしばむ。最後は…。
メイコ:や、やめて! やめてくださーい!
ケイコ:ミカンちゃん。脅かさないで。困って電話を掛けてきているんですから。
文 治:あ、そうじゃった。(と、突然明るく)ミカン作りで何よりも大切なのは枝の剪定(せんてい)じゃ。今年も潮風を浴びながら、わしは毎日のようにやった。
メイコ:ハ、ハァ…。
文 治:枝が、モシャモシャ茂ると、木の真ん中が薄暗くなり、風通しが悪くなって虫が湧く。おいしいミカンが作れん。メイコさんの「心配心」が、その虫なんじゃよ。
メイコ:…私の、「心配心」が…虫…。
文 治:嘘を付くのは、今すぐにやめなさーい!
メイコ:そ、そんな! 今更主人に何と?
文 治:「嘘」というのは難しいもんでなぁ。その一つひとつを全部覚えてなけりゃならん。ウッカリ本当のことを言おうものならば、「じゃあ前のは嘘だったのか?」ということにもなってな。肩こりの元じゃ。
メイコ:はい。気ばかり使い、生きた心地も致しません。
文 治:考えてもみなされ。あんたのお父さんは、「天」。空を見上げればいつでもそこにあるあの「天」じゃ。そしてお母さんは、「大地」―。
メイコ:(かみ締めるように)「天」がお父さんで…「大地」がお母さん?
文 治:そうじゃ。そのご両親を持ち、神様から命を授かっているのがメイコさん、あんたなんじゃよ。だから、その大切な体を、心を、嘘を付くことによって痛め付けちゃならんと、わしはそう言うておるのじゃ。
メイコ:…天がお父さんで、大地がお母さん…。神様から命を授かった私…。
文 治:ミカンの木は、自分で虫を取り除くことができん。どんなに頑張ってみてもなあ…。だが、人間は、心の不安を思い方一つで取り除くことができる。心の剪定じゃよ。ご主人に正直に話してな。謝ってな…。
メイコ:何とか頑張ってみます。あ、ありがとうございました!(電話切る)
ケイコ:(ナレーション)それから数日後のこと。番組宛てに1通の封書が届きました。
メイコ:ミカンちゃんのお言葉、心に深く染み入りました。私は自分で自分の心の中に、「心配」という余計な枝を茂らせて、身をむしばんでおりました。ミカンちゃんのお教えの通りに、早速、次の日、主人に通帳とハンコを出してわびましたところ、「2人で貯めた金だろう」と言って快く許してくれました。何とお礼を申し上げたらよろしいのか…。
ケイコ:「心の剪定」かぁ…。難しいけれども、あたしも頑張ってみよう!
