ラジオドラマ「晴れのち晴悟郎」最終回「ずっと晴悟郎」


●ラジオドラマ「晴れのち晴悟郎」
最終回「ずっと晴悟郎」

金光教放送センター

(バイクのエンジン音)

(ナレーション)
 9月に入ってもまだ東京では厳しい残暑が続いていました。でもここ北海道では秋の風が吹き渡っていました。

晴悟郎:ヤッホー! スゲエー! どこまでも続く一本道。空と道路と俺っきゃいない。うーん、気持ちがいいなぁ…来て本当に良かった! さてと、ここらで一休みといくかぁ…。
     (バイク止まる。エンジン切る)

(鳥の鳴き声)

(ナレーション)
 晴悟郎さんは、一本道の脇にバイクを止めると、近くの草原に寝転んで、青い空を眺めながらあしたはどこへ行こうか、何を食べようかと思案をしつつ旅の満足感に浸っていました。

正 也:(自転車来て止まる)わあーっ、でかいバイク。カッコいいなあ。おじさん、触ってもいい?
晴悟郎:え?…ああ乗りたきゃ乗っても構わないよ。(と言いながら起き上がって)
正 也:ホント?
晴悟郎:よーし、おじさんが押さえててやる。…それ、ヨイショ。(正也をバイクに乗せる)
正 也:わーっ!
晴悟郎:(正也の靴を見る)何だ、君の靴。ずいぶんボロボロじゃないか。待ってろ!(バイクの後ろの物入れから運動靴を取り出す)ほら、この運動靴、札幌で買ったんだけどサイズを間違えてね…窮屈だからやるよ。
正 也:えっ、いいの?
晴悟郎:今は少し大きいだろうけどすぐにちょうど良くなるよ。
正 也:ありがとう。

(携帯電話 鳴る)

晴悟郎:…誰からかな? …あっ、女房だ。(取る)…?
道 子:(携帯電話の声)あ、あなた! た、大変! ド、ド、ド、ドロボー! ドロボーが入ったの!
晴悟郎:な、何だって!
道 子:早く! 早く帰ってきて!
晴悟郎:何を盗られた! 通帳は? カードは? 印鑑は? もお、全財産、盗まれでもしたらもうバイクの旅が出来やしないじゃないか!
道 子:まあ、ヒ、ヒドイ! お金のことばかり言って…。「ケガはないのか無事なのか?」ぐらい言ってくれたっていいでしょ!
晴悟郎:う、うーん…お前がうっかりしてるからだ!
道 子:はぁ? とにかく早く帰ってきて!
晴悟郎:(牛が鳴く)正也君のお祖父じいさんですか。助かりました。こうしてバイクをお預かり頂けるなんて。
正 也:飛行場までは、お祖父ちゃんが車で送ってくれるって。
晴悟郎:2、3日で戻って来ますからご面倒でもバイクをよろしく。
正 一:お安い御用です。…あの、この運動靴はお返し致します。
晴悟郎:…えっ?
正 一:実は我がには規則がありまして…。
晴悟郎:規則? 何ですか。それ…。
正 一:先祖が内地からここへやって来た時…明治の時代ですよ。大きな川が氾濫はんらんを繰り返すんでこの辺りは沼地でさぁ。それを、曾祖父・祖父らが来る日も来る日も桶で水をかいて…盛り土をしてさぁ…そんでようやく出来上がったのが今あんたが通って来たあの道なんだわ。
晴悟郎:…!
正 一:鮭の皮を藁靴わらぐつに張ってた、とも聞きました。脱げるとヒルが足中にくっついて痛くてたまらない。そんでも水をかいて…。靴はうちらにとって生命いのちなんだわ。大切に、大切に、いよいよ履けなくなるまで大切に使う…時代錯誤と思われるかもしれませんが、先祖のそったら苦労を私は孫子の代にまで伝えていきたいんだわ…。お気持ちだけはありがたく頂きますが、この靴は…。
晴悟郎:はぁ、よく、よく分かりました。

(携帯が鳴る。晴悟郎取る)

道 子:(携帯電話の声)もしもし、あなた…大丈夫よ、もう無理をして帰って来なくても。
晴悟郎:…え?
道 子:(携帯電話の声)通帳も、カードもハンコもみんなあったのよ。警察の事情聴取も無事に済みました…実際の被害はほとんどなかったの。
晴悟郎:…け、けど…。
道 子:(携帯電話の声)(遮る)神様の、神様のおかげなんだわ。
晴悟郎:…神様…の?
道 子:(携帯電話の声)あなたが旅をしている時、あたしは毎日教会へ通ってお祈りをしているんですもの。
晴悟郎:ええっ、…これまでも? 毎日?
道 子:(携帯電話の声)あなたのお母さんだったらそうなさっていただろうなって。
晴悟郎:…!(感動)み、道子ー!
道 子:じゃあね!(携帯電話切る)
晴悟郎:お世話になりました。また、このまま旅を続けられることになりました。
正 一:ほう。それは良かったっしょ。北海道の旅を思う存分楽しんで下さい。
晴悟郎:はい、ありがとうございます。

(バイクサウンド)

晴悟郎:(バイクの疾走音を背景にひとりごと)…北海道! バイクに乗って大自然の懐に抱かれる幸せ!…でも、ラベンダーの花咲く道も、渓谷に掛かる大きな橋も…どれもこれもみな先人が苦労をし築きあげてくれたものばかりなんだ。
そのことに、俺はようやく気が付いた。道路や橋ばかりじゃない! 俺の無事を毎日神様に祈ってくれている女房…この愛車を、ヘルメットを、そしてブーツやサングラス…いろんなものを作ってくれた人たち…大勢の人々の世話になって…俺は初めてこのバイクの旅を…(次第に泣けてくる)生きている限りどれだけ多くの人や物に世話になっていることか…人生という旅が終わりを告げる日まで俺は言い続けよう、毎日「ありがとう!」と…。

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