●ラジオドラマ「ミカンちゃんのラジオ人生相談」
第2回「意地悪な先輩」

金光教放送センター
登場人物
・青柳 文治 (88歳) 静岡県のミカン農家の隠居 愛称ミカンちゃん
・原田ケイコ (33歳) とあるラジオ局のアナウンサー
・桃山とも子 (23歳) ケーキ屋の店員
・栗田 ミツ (35歳) ケーキ屋の店員
・男性店員 (20代)
ケイコ:さあ、いよいよ今日から始まる新コーナー「ミカンちゃんの人生相談」の時間です。ミカンちゃん。おはようございます。
文 治:ああ、おはよう。
ケイコ:今日は第1回目ということでミカンちゃんとは何者か、ご紹介を致したいと思います。ミカンちゃん、ご本名は?
文 治:私? 青柳、青柳文治と言います。
ケイコ:お年は、おいくつなんですか?
文 治:年は88歳となります。
ケイコ:お仕事は?
文 治:ミカンを栽培して80年。ミカンを愛してやまない年寄りです。
ケイコ:ご趣味は?
文 治:人助けを趣味としております。
ケイコ:はい、人助けが趣味という人生の達人、88歳のミカンちゃんがあなたの悩みに答えてくれます。それでは、「ミカンちゃんの人生相談」、早速始めましょう!
(電話ベル音)
ケイコ:ハイ、こちら「ミカンちゃんの人生相談」です。
女 性:(オズオズと)…モシモシ…。
ケイコ:まずお名前とお年をどうぞ。
女 性:…モモヤマ、です。
ケイコ:桃山さん、ご年齢は?
桃 山:23歳、です。
ケイコ:あの、ご相談は?
桃 山:実は私、短大を卒業した後すぐにお菓子作りの専門学校へ通って、今は、大きなケーキ屋へ入って丸1年が経ちます。
ケイコ:ご相談は、どういうことなんですか?
桃 山:実は…意地悪な先輩がいて困っています。きのうも…
(ケーキ屋店内のざわめき)
店 員:いらっしゃいませ。モンブランがお2つと、ピーチパイがお1つですね。
(別室。ケーキ作り)
桃 山:(水音)あーあ、手がシビれてもう動きゃしない。朝から卵を500個以上も割らされた…。汚れたボールにお皿、洗い物ばかりこんなにたくさん…もうウンザリ! …ああっ!
(お皿が割れる)
栗 田:桃山さん! また割ったのね、お皿!
桃 山:ス、スミマセン。
栗 田:あなた、この前もガラス瓶を割ったばかりじゃないの!
桃 山:手、手がシビれてたもんで。
栗 田:言い訳はおやめなさい! この仕事、あなたには向いていないんじゃないの!
桃 山:ええーッ、そ、そんな!
桃 山:(切々と)店へ入れば、すぐにでもケーキを作らせてもらえるとばかり思っていたんです。それなのに道具を洗わせられたり下準備ばかり。先輩の栗田さんの意地悪な言い方にも耐えられません。もう店を辞めようかと思って。将来の夢は、ケーキ屋さんなのに…。どうしたら良いのか…。
ケイコ:なるほど…。ミカンちゃんに伺ってみましょう。ミカンちゃーん!
文 治:フーム。
ケイコ:ミカンちゃん、何か良いアドバイスを!
文 治:(唐突に)ミカンは、好きかな? 桃山さん。
桃 山:…え?
文 治:ミカンは好きかと尋ねておる。
桃 山:…は、はい。大好きですけど…。
文 治:その大好きなミカンは、どうやって食べる?
桃 山:…むいて。皮をむいて。
文 治:その皮をむく時に、手に傷が付くことがあるか?
桃 山:いえ、付きません。
文 治:誰も知らんのじゃ。ミカンの実は、収穫した時にはあのおヘソのところにまだ枝が残っておる。その枝の切り口は、鋭くとがっていてなぁ…。
桃 山:えっ、とがっている?
文 治:うむ。わずか2センチばかりの小さな枝なのじゃが…。それを、ミカン農家のわしたちが総出で切る。はさみを使ってな。そのままで出荷をしたら、ミカン同士が傷付け合うことになってしまうからなぁ…。
桃 山:(ハッとなる)…ミカン同士が、傷付け合う…。
文 治:そんなことになったら大変じゃよ。だから、朝から晩まで、はさみで枝をチョッキンチョッキン。手は痛む。シビれる…。だが、誰も泣き言一つ言わん。ミカンが可愛いから…。おいしいおいしいと言うて食べてくれる大勢の人たちがいるということを、みんなよく知っておるから…。
文 治:物を作るというのは、そういうことなんじゃよ。
桃 山:…(息をのむ)…ケーキ…も?
文 治:もちろん。人に喜んでもらえることで、わしらの苦労は報われる。鋭くとがったミカンの枝、ミカンは自分の手で取り除くことができん。だが、人間は、それができる!
桃 山:あたしの胸の中のギザギザの枝…自分で取り除くことができる…。
文 治:あの、何て言ったかな? 君の先輩…栗田さん、ちょいと言い方はキツイが、悪い人ではない。ケーキ作りの仕事に燃えているんじゃろう。お客さんのことを真剣に考えておるに違いない。
桃 山:…栗田さん…。
文 治:分かったようじゃな。じゃあ早く店に出掛けなさい!
桃 山:はい。ゴメンナサイ、栗田さん。(明るく)ミカンちゃん! 元気出ました! お皿も一生懸命に洗います。
文 治:うむ。卵割りもな!
桃 山:ハイ! ありがとうございました! じゃ、行ってきまーす!
ケイコ:お気を付けて。春とはいっても、朝の風はまだまだ冷たいですから。では、これで「ミカンちゃんの人生相談」を終わります。来週もまたお電話をお待ちしておりまーす。
