●信者さんのおはなし
「七冊目」

金光教放送センター
(ナレ)兵庫県は西宮市、高校球児の聖地、甲子園球場のすぐ近くに、金光教今津教会はあります。その教会にお参りする名倉見治さんは、3年前に還暦を迎えましたが、まだまだ現役のエンジニアです。産業機械の設計に携わっています。「好きな設計の仕事をずっと続けています」と、にこやかに語ります。
家族は妻、そして子どもが2人に孫が2人。またまたにこやかに、「小学生の孫にはしょっちゅう遊んでもらっています」と笑顔が弾けます。
そんな名倉さんは、幼い頃に父親を亡くしたことをきっかけに、母親とともに今津教会にお参りするようになりました。そして「フォーゲル」という、キャンプやスキーなどの野外活動、ゲームや料理などを行う、教会の少年少女活動に加わるようになります。
そこには、リーダーと呼ばれる指導する立場のお兄さん、お姉さんがいて、名倉さんの面倒をよく見てくれて、名倉さんを支えてくれました。
大学生になってからは、今度は名倉さんがそのリーダーという立場に立つことになります。でも「困ったなあ」と思うことがありました。人としゃべることがあまり得意ではなかったのです。
(名倉)おじいちゃんが時々、うちに来てくれた時、あるいは田舎に行った時もそうだったんですけども、「お前はほんまにしゃべらんなあ。もっと自分のことをしゃべらなあかんで」ということを言われたんで、本当に、晩年、おじいちゃんが亡くなる、遺言というわけじゃないんですけど、そういう話をしたのは本当に本当に最後に、「ちゃんとしゃべらなあかん」というようなことを言ったことが今でもずっと頭に残ってて、やっぱりしゃべらへんというのがあかんのかな、ということと、はたから見れば、本当に僕はモノを言わへんねんな、という…。
(ナレ)今は少しもそんなことを感じさせない名倉さんですが、その時は、リーダーという立場上、子どもたちを前に、話をしないわけにはいきません。少しずつですが、どうにか人前で話をすることに抵抗がなくなっていきます。自分の思いを人に「伝える」ことが形になり、同じフォーゲルのリーダーと、結婚することとなりました。
そうして年を重ねる中で、現在の教会長先生から、「伝えるのではなく、伝わる信心を」という教えを受けます。
名倉さんは自らに問いかけます。はたして自分の言葉は、「伝わる」ことになっているんだろうか。「伝わる」とはどういうことだろう。自分の姿は家族にどう映っているんだろうか。
そんな思いにとらわれながら、いつしか、名倉さんは家族の名前をノートに書いて、毎日祈るという取り組みを始めます。
(名倉)家族一人ひとりの名前を祈念しながら書かせてもらうというような形で、もう8年、9年目になっているのかな。はじめは家族4人だけだったんですけど、ちょっとずつ名前を増やして、孫の分とか家内のお父さんお母さんの分とか、だんだん名前を増やしていきながらずっと続けさせていただくと。思いは、一日一日の締めくくりの御礼として書かせていただくのがいいんだろうなと始めてるんですけど、やっぱり一日忘れ、二日忘れとかというんで、忘れてたまった分をまとめて、とかという部分もあるんですけども、やっぱり、たとえたまって、それをまとめてというのがあったとしても、気づいてまたもう一回そこからという形で、とにかく続けさせていただくことが、とっても大事なことなんかな、という思いで、今もさせていただいています。
(ナレ)目の前には、名倉さんがお持ちくださったノートがあります。大学ノートにびっしりと、几帳面な文字で、家族の名前が綴られています。一人ひとりの顔や姿を思い浮かべながら、ゆっくりと丁寧に祈りを捧げる、その祈りが積み重なっての七冊目となるノートでした。一人ひとりのことを祈ることができるということ、そのありがたさにお礼を申しながら、また今日もページが増えていきます。
そんな営みが続く、令和5年のことです。その年は今津教会が誕生して百年という節目の年でした。その大きなお祝いの日まであと三百日。その日から、今日は何日目という数字を、教会の目立つところに貼り付けることになりました。
(名倉)ちょうど娘とこの話をしてた時に、じゃあ、その数字をみんなで一つずつ作らせてもらったらいいんじゃないのという話になって、手書きで数字を作られたり、ちょっとこうイラストみたいな感じのものにしたり、奇麗な色を塗ったりとか、小っちゃい子が書いたちょっとクシャクシャとなったようなものも含めてとか、あるいは、奇麗な色の紙を切り取って、それを貼り付けて数字にしたりとか、もう本当に、皆さん皆さんにそれを作っていただきながら。三百枚というのを、一日も欠かさず、それをこう全部作れたというのが、それも非常によかったなあと。娘がそれを言ってくれたというのが私にとっては、とってもありがたかったなあ、と思います。
(ナレ)家族、フォーゲルのみんな、教会の方々、仕事仲間、その他大勢のご縁を頂いた人たち。これまでの人生を思い起こすと、名倉さんの心に響いた言葉や行いの数々は、人のことを思う力、その強さに満ちあふれていました。形だけではない、人のことを思う強さこそ、「伝わる」ことの正体だと、名倉さんの表情は語っています。
