摂食障害を乗り越えて(テーマ:「心のケア」)


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「摂食障害を乗り越えて」

金光教佐古さこ教会
木村榮子きむらえいこ 先生


 私は、縁あって金光教の教会に嫁いできました。そして2人の娘に恵まれました。長女は、看護師になりたいと県外の大学に入り、1人暮らしを始めました。
 今から7年前の春のことです。3年になった娘は、友人と沖縄旅行に行きました。数日後、帰ってくるなり、「ウエストを細くしたいからダイエットする」と宣言しました。毎日カロリー計算し、おやつを食べると食事を減らし、必ず運動するなど徹底して実行し、思いどおりに痩せていきました。8月に帰ってきた時、娘の手足はかなり細く、胸は肋骨ろっこつが浮き出るくらいになっていました。私たち家族は驚いて、「もうそれ以上痩せる必要はない」と言いましたが、「まだウエストが太いから…」と、毎日食事制限してジョギングをします。
 その頃、若い女性が無理なダイエットをして拒食症になると聞いていたので、私は心配になって、拒食症のことを調べました。すると、娘の行動に当てはまる項目がいくつもありました。私は、娘に心療内科の診察を受けるよう勧めましたが、本人は、「病気ではない。自分でコントロールできてるから大丈夫」と言って、聞く耳を持ちません。
 冬休み近くなったある夜、泣きながら、「お母さん、来て」と、電話してきました。私は、その泣き声に驚いて、すぐに飛んで行きました。部屋に入ると、以前よりさらに痩せた娘がベッドで泣いていました。思わず抱き寄せて、その夜はそのまま休みました。
 翌日、娘と話し合いました。「最近1人で過ごすのが耐えられないほど寂しく、自分などいなくてもいい。価値のない存在」と自己否定します。授業も休みがちでした。それで、病院に行くことを約束して、一緒に帰ることになりました。翌日、病院の診断結果は、摂食障害でした。この時すでに娘は、拒食から過食に転じていたようです。
 過食は、食べたい欲求を自分で抑えられず、食べた後には太ることへの恐怖と食べてしまった自責の念に捕らわれ、吐く、下剤を飲む行為で、心が落ち着くようでした。でも、吐くと体のバランスが狂って 起きていられないほど体がだるくなり、寝てしまいます。食べる・吐く・眠る。この繰り返しです。通院とカウンセリングを続けましたが、なかなかその連鎖を止めることができません。そして、リストカットもし始めました。
 私は、どう対処してよいのか分からなくて、看護学校の教師をしていた姉に相談すると、娘の周囲の者や家族が時間をかけて辛抱強く愛情深く接していかないと回復が難しい心の病気だということでした。私たち家族は、必死に娘のことを神様にお願いしました。そしてまず、食べ過ぎても吐かないことを目標にし、どんなに太っても私たちはあなたのことが大好きで、大切な存在だと言い続けました。でも、娘の心の縛りは、なかなか解けません。4年になると大学では病院実習と国家試験の準備が始まります。今の状態ではとても無理、ゆっくり治療しようと話し合い、休学することを決めました。
 4月が近付いた頃、娘に少し変化が現れました。病気を治したいという気持ちが生まれてきて、吐くことを何回か辛抱できるようになりました。新学期を迎え、私と娘は休学手続きと先生との面談のため大学へ行きました。新学期初日で、クラスのみんなは教室にいて、娘が休学することは親しい友人から伝わっていたようでした。娘は、今日がみんなと会う最後になるからと、昼休みの時間に教室へ行きました。すると、みんな大変喜んでくれ、イラストやユニークな写真たっぷりの模造紙2枚分の心のこもった寄せ書きを娘に送ろうと用意してくれていました。さらに「一緒に頑張ろう」と言ってくれたのです。
 そんな感動的な出来事があった後での学部長、担任の先生との面談に、娘の心は揺らいでいました。先生方は、開口一番に、「あなたのために私たちは何ができますか」と尋ねてくださいました。そして、娘に本当に休学でよいのかと確認しました。娘は、「みんなと一緒に卒業したい。けれども一人で厳しい病院実習をこなしていく自信がない。迷っている」と答えました。娘には、まだ食事管理と精神的な支えが必要でした。すると学部長が、「お母さんが、実習期間中こちらに来てくださることを条件で、進級してはどうですか」と仰いました。娘は、「頑張れると思います」と答えました。
 その後、私たちは、病気の回復と、志望どおり看護師になって、社会のお役に立たせて頂けますようにと、神様にお願いしました。私は、さらに心の中で、「摂食障害で苦しんでいる人たちの気持ちに寄り添えるようなお役に立たせてください」と、押してお願いしました。
 こうして5月から7月末まで平日は娘の所、休日は家に帰るという私の生活が始まりました。娘もよく頑張り、1日も休まず実習を終えることができました。さらに地元の病院に就職が決まり、卒業後は、毎日忙しく過ごすようになりました。
 過食の回数も減り、薬は飲まなくても大丈夫になり、そして昨年結婚、男の子を出産し、母親となりました。今振り返れば、休学することなく頑張れたことが、今の幸せにつながったのだと思います。たくさんの人たちに支えられて、今の彼女があります。
 そして忘れてはならないのは、そういう人たちを娘の周りに引き寄せてくださった神様のお働きです。娘は、この体験からお願いすることの大切さが分かったようでした。神様のお働きを感じたのでしょう。今は家族みんなで教会に参拝しています。

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