ラジオドラマ「坂下の小さな店で」最終回「春よ来い」


●ラジオドラマ「坂下の小さな店で」
最終回「春よ来い」

金光教放送センター

しげの(M)
 私はしげのです。70歳です。丘のふもとにある何でも屋に嫁いできてから45年が経ちました。

しげの(M)
 元旦となりました。

修 造:あけましておめでとう。
しげの:今年もよろしくお願いします。

しげの(M)
 夫の修造です。2つ年上の72歳で元は小学校の校長先生です。

修 造:(SE 雨戸開ける)うわーっ! ゆ、雪だー!
しげの:昨日の晩から降り出したんですね。

         SE (雪かき)

修 造:誰かが雪かきを…。わあーっ。鈴木さんじゃありませんか!

しげの(M)
 ご近所の鈴木さんでした。亡くなった夫の母親のミツさんと同い年ですから95歳となります。

しげの:鈴木さん!
鈴 木:おはよう。ミツさんが大変じゃろうと思うて…。
修 造:え、おふくろが?…あ、ああ、鈴木さん! びしょぬれじゃありませんか。
しげの:風邪でも引いたら大変! さ、早く中へ!

しげの:鈴木さん。甘酒をお一つ。あったまりますよ。
鈴 木:ヤ、ありがとう!(SE 甘酒飲む)あー、うまい! ミツさんの手作りはやはり違う!
しげの:(弱って)それはスーパーで買ってきたものなの。作り方をミツさんから教わっとけば良かったんですけど。
修 造:しげの。鈴木さんのお宅に早くご連絡を。
しげの:あ、そ、そうでしたね。

しげの(M)
 私は鈴木さんの家へ電話を掛けました。

 浩(声):ええーッ! 親父が よ、良かった! 起きてみたら親父がいないので、困り果てていたんですよ。す、すぐに迎えにゆきます!(電話切れる)
しげの:(修造に)あなた、すぐに迎えに来られるって。息子さん、困ってらしたわよ。
鈴 木:わしはミツさんからよう聞いとるぞ。「困っても困らない」生き方、というものを。

ミツ(声):鈴木さん。私たちはね、神様の大きな懐の中に生かされているんですよ。でもその懐は大きすぎて、誰にも見えないのよ。だから、人は困る。

しげの:鈴木さん。私はミツさんとここで40年も一緒に暮らしてきたけど、ただの一度だって聞いたことがありません。困っても困らない生き方なんて…。
鈴 木:ミツさんはな、わしの目の前で、まずこの親指と人さし指で丸を作って、「これは見えるでしょ」と言ってな。それから、次は、両手を大きく頭の上から、横、下へ広げて丸を作って見せてくれた。
しげの:へーえ。
鈴 木:それでな、こう言ったんじゃ。「人の目に見えるのは、限られたもの。大きな大きなものは見えない。だから人は神様が見えないのよ…」。
しげの:…大きいから、神様は…見えない…。
鈴 木:その大きな神様がいつでも一緒にいてくださる、守っていてくださるのじゃと。だから…。
しげの:困っても、困らない!

 浩 :(OFFで)ごめんくださーい。
しげの:息子さんだわ。は、はーい!
 浩 :ご迷惑をお掛けしました。すぐに連れて帰ります。お父さーん。お父さーん!
鈴 木:? な、何だ? もう、うるさいな。
 浩 :何だじゃないですよ。どれだけ心配をしたか。どれだけ困ったか…。
しげの:浩さん。腕を大きく上に回して。
 浩 :え? な、何なんですか?
鈴 木:言うても無駄じゃ。分からん。…さ、早う帰ろう!
 浩 :そうそう。もう黙って家を出てゆかないでくださいよ! じゃ、どうも!(去る)
しげの:鈴木さん、どうもありがとうございましたー。

しげの(M)
 鈴木さんの後ろ姿をいつまでもミツさんが見送っているような気がしました。

       SE (年賀状 投函)

しげの:年賀状が届いたわ。美弥子からだ。今年もイラストがかわいいわー。
修 造:達也からは?
しげの:(探しながら)届いているわよ。こっちは家族写真だわ。2人とも孫たちを連れて3日の日に来るって。
修 造:あさってか…。待ち遠しいなあ。
しげの:あなた!
修 造:ん?
しげの:元日は休みますけど、明日からお店は開けますからね。丘のふもとの「坂下の小さな店」。もうすぐ春が、春がやってくる!

ミツ(声):しげのさん。春はね、見えないけれども、いつでも私たちの心の中にいらっしゃる神様が…神様が運んできてくださるんですよ。春よ、来い!

            音楽 (END)

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