ラジオドラマ「坂下の小さな店で」第4回「お茶にしましょ。」


●ラジオドラマ「坂下の小さな店で」
第3回「お茶にしましょ。」

金光教放送センター

しげの(M)
 私はなだらかな丘を下った所にある「坂下の店」、何でも屋を嫁いできてからずっとやっています。しげのといいます。70歳です。

しげの(M)
 6月となりました。

しげの:あなたー。午後から雨が降るんですって。
修 造:じゃ、今のうちに行ってくるか。

しげの(M)
 夫の修造です。2つ年上で元は小学校の校長先生です。日課の散歩に出掛けてゆきました。ところが、3分も経たないうちに…。

修 造:ただいまー。
しげの:早過ぎやしない?
修 造:そこでトモさんと出会ってな。
しげの:いらっしゃーい。トモさん。
ト モ:こんにちはー。
しげの:お元気そうで何より。今日は?
ト モ:段ボールをもらいにきたのよ。
しげの:大きさは?
ト モ:できれば一番大きいのを。
修 造:しげの…。トモさんな、お引っ越しをなさるんだと。
しげの:お、お引っ越し?
ト モ:そう。やんなっちゃう。仕立物の仕事を長年くれていた、ほら、あの呉服屋さんが…。
しげの:駅前の?
ト モ:お店を急に畳むことになっちゃって。
しげの:今じゃ、和服着る人が減っちゃったからねぇ。
ト モ:お払い箱になっちゃったのよ。年金だけじゃね。今のアパート…。
修 造:家賃が高くて…なんだそうだよ。「段ボールは私が運びましょう」ってことで一緒に戻ってきたんだよ。
 
しげの(M)
 夫は段ボールを持ち、トモさんの住むアパートへと向かいました。

ミツ(声):しげのさん。お土地の神様を、大切に…。

しげの:ミツさんの声だ!

しげの(M)
 5年前に亡くなった夫の母親のミツさんの声が私の胸に響いたきました。

ミツ(声):しげのさん。天に神様がいらっしゃるのとおんなじように、大地にも神様がいらっしゃるんですよ。私たちが住んでるこのお土地を、建物を、いつでも、どんな時にでも守ってくださっているありがたい神様のことを決して忘れてはなりませんよ。

しげの:あっ、そうだ!…このこと、トモさんにも!

しげの(M)
 トモさんのアパートへ私も急ぎました。

しげの:トモさん。お土地の神様と建物にいつも感謝をしていると、お掃除が自然と楽しくなるものなのよ。(ほうきで畳を掃く)ほら、こうやって。ほら、こうやって…。
修 造:おふくろがよくやっていたなあ。
ト モ:話には聞いていたけれども、お茶を淹れた後の葉っぱを、畳にまいてお掃除をするだなんて。ホント! 奇麗になった! 気分がいいわー!
しげの:どこへ行ってもお土地の神様のこと、そして住まわせてもらっている建物のことを忘れずにいればきっと…きっとあなたのことを守ってくださるわ!
ト モ:長い間住まわせていただいていたのに、お礼の一つも言わずに…。ご、ごめんなさいねー。(と、今にも泣き出さんばかりに)
しげの:…ト、トモさん…!

しげの(M)
 それから1週間ばかりが経ちました。

ト モ:こんにちはー。
しげの:…ト、トモさん。
ト モ:(感動して涙ながらに)し、しげのさん。あ、ありがとう!
しげの:何のこと?
ト モ:しげのさん。こんなことって…。
しげの:えっ?
ト モ:あるのかしら…。大家さんが…。
しげの:…アパートの?
ト モ:ええ。家賃はずっと安くするから今までどおりに住んでいてほしい、ですって。
しげの:まあー!
ト モ:本当にいらっしゃるのねえ、お土地の神様って。これからは朝に晩に手を合わせるわ。お茶ガラを使ってお掃除も頑張る! しげのさん。これからもお茶をたくさん買いに…あっ、今日もお茶を1袋下さいな。
しげの:ハイ、ハイ。いつもので?
ト モ:ええ。
しげの:540円です。
ト モ:ちょうどあったわ。しげのさん、本当にどうもありがとう!
しげの:これからも末長くごひいきにー!

         (雨)

しげの:…あ、雨だわ。トモさん、ぬれなかったかしら…。
修 造:もうアパートに着いてるよ。お茶、飲んでるよ。(お茶 飲む)
しげの:そうだといいけれど…。(お茶 飲む)ああ、おいしい! …あ、お土地の神様にも、お茶をお供えしましょうね。(ガラス戸 開ける)…アラ、アジサイの花…。日ごとに色が濃くなるわ。…奇麗!

ミツ(声):しげのさん…。神様に、いつも守られているから、アジサイは毎年こうして花を咲かせることができるんですよ。人間だって、奇麗な花を咲かせなければ。ねっ!

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