●先生のおはなし
「私もあなたも」

金光教葺合教会
浅田幸恵 先生
自分の周りの環境が変化して、人間関係に戸惑ったことはありませんか? 人生の中で、人それぞれ周りの環境が大きく変わることがあると思います。
私の一番の環境の変化は結婚でした。まず8年間勤めた仕事を辞めなければなりませんでした。そして東京から神戸に引っ越しました。私は熊本県出身でもともとは熊本弁を話していましたが、こちらは神戸弁です。理解出来ない言葉がいくつかありました。また、一人暮らしから、夫の祖母、両親と同居を始めました。郷土の文化の違い、さらに家の習慣の違い、まるで外国でホームステイをしているかのような気分でした。
そして何よりも、結婚したことで名字が変わりました。運転免許証、パスポート、銀行や郵便局の口座、クレジットカードの名義変更をしなければなりません。「いったいこれ、いつ終わるの?」とうんざりしてしまいました。
さらに、名義変更の手続きを進めていくうちに、自分でも予想しなかった気持ちに襲われました。それは、32年間使っていた名字が、新しい名字に変わっていく度に、これまで生きてきた今までの自分がなくなっていくようで、とても悲しく、だんだん喪失感を味わうようになっていったのです。
そのような変化に加え、これまでのライフスタイルの違いからか、私は夫の考えも理解出来なくなり、イライラすることが多くなりました。ストレスがたまり、夫が私の思い通りに行動してくれないと、怒りをぶつけるようになりました。本当はそんな風になりたくないのですが、自分がコントロール出来ず、どうしたらいいのか分かりませんでした。
そのような時、金光教の前の教主が詠まれた「ちちははも 子どもとともに生れたり そだたねばならぬ 子もちちははも」というお歌を何かの冊子で見掛けました。そしてそこには、「親は子どもが生まれて初めて親になる。親と子は一緒に成長していくのである。良い子どもになるようにお願いするのも大事だが、良い親になるようにお願いしなければならない」というようなことが書いてありました。
私はこれを読んでふと、「夫婦も同じだな。結婚して初めて夫婦になる。夫がいるからこそ私は妻でいられるのだな」と思いました。
そして、この教えのように神様にお願いしたら、仲の良い夫婦になれるかなと思い、神様にお願いしてみることにしました。
まず自分のことを、「良い妻にならせて下さい」とお願いして、次に「良い夫にならせて下さい」とお願いし、最後に「良い夫婦にならせて下さい」とお願いするようになりました。
そうすると夫がいろいろと気遣ってくれていることに気が付くようになりました。夫は食事の後片付けを手伝ってくれます。洗濯をしたら、「ありがとう」と言ってくれます。私が風邪を引いた時には、献身的に看病してくれます。いつも私の味方をしてくれます。そのような思いやりを感じることが出来るようになり、私の心もだんだんと落ち着くようになってきました。
これまでは夫に対して、「こうして欲しい。ああして欲しい」とばかり思っていました。しかし神様にお願いするようになってからは、「私が夫の家族の中に入るのは大変だ。でも夫も私のことを家族の中に受け入れるのは大変なのかもしれない」と、お互いに思いやりを持つことが大切なのだと気が付きました。
そうして生活していくと、次に気になってくるのは義理の父と母です。特に母とは、一緒に食事作りや掃除、片付けなどをします。しかしながら、私と母では味付けの好みが違うのです。卵焼きで例えると、私は砂糖をどっさり入れて甘くする味付け、母はだしをきかせた、いわゆるだし巻き卵の味付けです。掃除や片付けのやり方も違います。ほんの小さなことですが、今まで自分がしてきたやり方をやめるというのは、結構大変です。嫁と姑なので気も使います。私は出来るだけ合わせようとはしましたが、内心では、「大変だなー。自分のやり方に戻したい」と思っていました。
しかし、先ほどの夫婦のお願いをしているうちに、ふと気が付いたことがありました。それは、「今まで自分ばかりがお母さんに合わせていると考えていた。でも、もしかしたら、私の気が付かないところで、お母さんが私に合わせてくれているのかもしれない」ということです。
そこで義理の両親とも仲良くしていきたいと思い、また神様にお願いすることにしました。まず私たち夫婦のことを、「良い子どもにならせて下さい」。そして次に両親のことを「良い親にならせて下さい」とお願いし、「良い親子にならせて下さい」とお願いするようになりました。そして最後に、夫婦が夫婦として、親子は親子として、一緒に成長していきたい、そう願って、「良い家族にならせて下さい」とお願いしています。
環境の変化に自分を合わせていくことは大変です。ついつい周りに、「もっとこうして欲しい。ああしてくれたら」という気持ちになってしまいます。でもきっと、周りの人も合わせてくれていることがあるのではないでしょうか。そのことに気が付けば、周りの人と新たな関係を築くスタートになると思います。
お互いに思いやりを持ち、お互いに成長することを願っていく。私だけでもなくあなただけでもない。私もあなたも一緒に成長していくことが、良い人間関係を作っていくことになると思います。