ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」第4回「大願成就」


●ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」
第4回大願成就たいがんじょうじゅ

金光教放送センター


登場人物
 ・佐藤範雄さとうのりお    20代後半
 ・登勢とせ(教祖夫人)60代
 ・教祖


(アブラゼミの声、うるさく)

範雄(独り言)暑いなあ…。だが、後もう少しの道のりだ…。

(走り出す)

範雄 (独り言) 今のご時世は、自由に教えを広めることは難しくなっているけど、こんな良い話を金光様にお聞かせしたら、さぞ喜んでくださるだろうなあ…。

(つるべ、井戸の水音)

登勢 まあ、佐藤さんじゃありませんか。
範雄 あ、奥様。こんにちは。
登勢 この強い日差しの中を、汗びっしょりで、どうなさいました? 
範雄 はい、金光様に急ぎのお知らせがありまして。
登勢 それにしても、お着物が汗ぐっしょり。ちょうど今、洗濯物をしておりました。この井戸で汗を流してくださいな。着物も家ので良かったらお着替えなさいませ。
範雄 ありがとうございます。それでは急いでおりますので、冷たいお水を一杯だけ。

(井戸水をくみ上げる)

範雄 ああ、冷たい、おいしい。すっきり致しました、生き返ったようです。

(また、セミの声)

範雄 それで金光様、教団の独立までの手順をともうらの神社の宮司様に教えて頂きました。今は明治十五年、ぜひ、この機会に。
教祖 鞆の浦というと、吉岡様ですか?
範雄 はい、まずは教えを整え、金光教会を設立致します。
教祖 佐藤さん。
範雄 はい。
教祖 設立しなくても、人が助かりさえすれば、私は結構です。
範雄 え! そんな! …でも、でも金光様。近頃では人を助けることが難しくなっております。警察の取り締りや、他の宗派の迫害を受けて、難儀している者が大勢おります。辛抱していればそのうちに良くなるという状況ではありません。
教祖 ここに、岡山県の知事の認状みとめじょうがありますよ。
範雄 金光様、そんなものは役人の腹一つで、いつ何どき覆るか分かりません。それに、ご神前で祈ることや、お取次までは認められておりません。
教祖 でも、今はお取次とりつぎも神様へのお祈りも、このように差し支えなく出来ていますよ。
範雄 それは、目立たないからです。参拝者が増えると、警察が黙ってはいません。金光様の教えを広めるのに熱心な大阪の近藤さんは、警察署に拘留されて、厳しい取り調べを受けているそうです。
ですから、国に認められなければ取り潰されてしまいます。公認を得て独立すれば、天地金乃神てんちかねのかみ様も、堂々とお祭りすることが出来ます。
教祖 お上が認めずとも、神様が認めて下されば結構なのです。
範雄 それではこの道の神様のありがたさが、限られた者にしか分からなくなってしまいますが。
教祖 この道は神様がお開きになったものですから、すべて神様にお任せして…。
範雄 もちろん、それはそうですが、金光様を始め、各地でお取次をする者や、信者の働きあっての道でございます。お取次が出来なければ、「取り次ぎ助けてやってくれ」とお頼みになった神様の切なる願いが後の世に伝わりません。それに…。
教祖 それに、何ですか?
範雄 こんなことはとても申し上げにくいのですが…。あの、もし金光様がお亡くなりになりますと、世のはやり神と同じになりかねないと私は思います。
教祖 はやり神と同じ?
範雄 はい。鈴鹿すずか様という徳の高い神主さんがおられまして、生神様と言われ多くの方々に慕われておりました。ところがお亡くなりになったら、すっかり寂れてしまい、今ではその石碑が残っているだけでございます。
 それに、金光の信心と言いながら、低俗なことを説いている者もおります。神様を汚すようなことになっては、申し訳が立ちません。
教祖 …。
範雄 このままでは、途絶えてしまいます。ですから、教えを世に出し、人が助かるこのお道を存続させることが最も大切かと存じます。
教祖 うーん…。
範雄 金光様!
教祖 それでは、神様にお伺いしてみましょう。

(ひときわセミの声おこって消えていく)

範雄 金光様と一緒に私も一心に願った。どうかお聞き届け下さい…。やがて、暑さも気にならず、やかましかったセミの声さえも耳に入らなくなった。

教祖 神様からのお言葉がありました。
範雄 どのような?
教祖 「神の教えること、何かと書いておくがよかろう」とのことでした。佐藤さん、きっとあなたの熱意が、神様を動かしたのですね。
範雄 本当ですか! お聞き届けくださって、ありがたいことでございます。
教祖 いいですか。決して、教会のための組織ではありませんよ。あくまでも人々が助かるための組織です。
範雄 はい、十分に心得ております。
教祖 まずは、どのようにしていけばいいのですか?
範雄 金光様のおっしゃる教えを、私が箇条書きに書き取ってまいります。
教祖 一つひとつ神様にお伺いし、間違いのないようにしないといけませんね。
範雄 これからは忙しくなります、金光様。
教祖 そうですね。

範雄 大願成就だ! 道が開ける! …そうだ!

(走り出す)

範雄 この知らせを待っている人たちに早く知らせなければ…。

(思わず叫ぶ)大願成就だ! 

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