ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」第3回「仙人になりたい」


●ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」
第3回「仙人になりたい」

金光教放送センター


登場人物
 
吉蔵きちぞう       30代
 ・しの(吉蔵の妻)  30代
 ・教祖


しの また言うてはるんですかあんた、もう聞き飽きました。
吉蔵 へえ?
しの そんなに仙人になりたいんですか?
吉蔵 そうや。
しの 何でです? 毎日毎日寝言みたいに、仙人になりたい、なりたい言うて。あんた金光様を信心してはりますやろ。それで十分ですがな。
吉蔵 そやからや。
しの 何です?
吉蔵 金光様も仙人みたいなお人やと思てるんや。わしらの考えてることをピタッと当てはる。
しの だから?
吉蔵 わしもそれに近付きたいと思うんや。これまで修行らしい修行も積んだことがない。それで一念発起して、自分の心と体を鍛えようと思たんや。
しの へえー、それでどないしはるんですか?
吉蔵 まず、山に入る。
しの 山?
吉蔵 そうや、深い山や。深い山に入って行をする。
しの どんな修行です?
吉蔵 山を走ったり、滝に打たれる。木の実や草を食べて生きて行く、そのうちに水だけ飲んで暮らせるようになる。
しの えらい不自由なことですなあ。まるで忍術使いの稽古みたいですな。
吉蔵 忍術使い? アホなこと言うな。その不自由に耐えることが、行になるとわしは思うんや。 
しの そうやろか? あんたやったらまず病気になる方が先やと思いますけどなあ。それで、何日くらい山にこもらはるんですか?
吉蔵 さあー、やったことないし、分からんなあ。半年か…、1年か2年か…。
しの その間、この店の商いは、どないしますんや。
吉蔵 おまえと丁稚でっちがおるやろ、こんな履物屋わしがおらんでも何とかなるて。そんでな、
そうして行をしているうちに、かすみを食べるだけで、生きていけるようになれるかもしれん。そしたらある日、仙人の師匠が迎えに来てくれる、ということもあるやろ。それで、雲に乗って空を飛ぶ術も教えてくれるかもしれん。
しの アホらし、あんた、昔の何やらいう話、えーと…そやそや、久米の仙人や。雲に乗って飛んでいた仙人が、ふと下界を見下ろした時に、川で裾をからげて洗濯していた若い女のふくらはぎが目に入って雲から落ちた、いう話に影響されてるんと違いますか?
吉蔵 えっ、そんなんおまえに言われるまで、思い出しもせんかった。
しの あんたなんて、仮に、仮にですよ、空を飛べたとしても、あちこち目が泳いで、すぐに落ちてけがするに決まってますやん。何でそんなアホな夢みたいなことばっかり、考えるんですか。
吉蔵 アホな夢やて! あーあ、おまえの減らず口は相変わらずやなあ。そうや、おしゃべりのおまえにうってつけの行がある。
しの 何です?
吉蔵 無言の行や。
しの …。
吉蔵 そや、思い立ったが吉日や、あしたから山に行くから弁当作ってくれや。
しの …。
吉蔵 なあ。
しの …。
吉蔵 何で黙ってるんや? 何か言えや。
しの 無言の行をせい、言うたのはあんたですよ。第一、行をしに山に行くのに、何でお弁当が要るんですか? さっき、木の実や、草を食べるて言わはったのは誰ですか?
吉蔵 う、ううん…。

(戸を開けて)

吉蔵 ただいま。
しの あー、もう帰ってきはったんですか? 出掛けて4日しかたってへんのに、ほんまに山に行かはったんですか? お友達のとこで、遊んではったんと違いますのんか?
吉蔵 あほ、そんなことしてへん(大きなクシャミ)。ちゃんと山で、滝に打たれて水行をして…(またクシャミ)あー体がぞくぞくして、頭が割れそうに痛いんや(ハクション・ハクション)そやから…。

吉蔵 金光様、えらいご無沙汰を致しまして…。
教祖 いろいろと、ご苦労なことがありましたね。
吉蔵 はあー、何もかもお見通しで…、お恥ずかしい次第です。
教祖 吉蔵さん、人間は人間らしくすればいいのです。何も自ら求めて、不思議な体験をしなくてもいいのですよ。
吉蔵 は…はい。
教祖 表行わぎょうより心行しんぎょうをせよと、神様はおっしゃいます。
吉蔵 表行とは…?
教祖 表という字に行と書いて、わぎょうと読みます。つまり表行とは、水の行・火の行・断食行などの、目に見える形での行です。
吉蔵 それでは心行とは?
教祖 読んで字のごとく心の行、心の働きですよ。つまり人に対して不平不満を持たず、物事の不自由を修行と心得、家業、つまり家の仕事ですな、それを一心に勤め、身分不相応を過ごさないように倹約をし、それを誰にも言わずに行えば、これが心行となります。
吉蔵 なるほど、なるほど、ええことを教えて頂きました。ありがとうございます。
教祖 心行は、心掛けさえすれば、日常の生活の中で出来ますからね。
吉蔵 はい、よう分かりました。

(昔の商店街のにぎわい)
しの おおきに、ありがとさんでございます。
吉蔵 何や、ここのところ、店に、急に客が増えたな。
しの そら、あんたがけったいなことをしはるから、どんな変人がいてるか、あんたの顔を見にきはるんですわ。
吉蔵 そら違うわ、わしが金光様に教えて頂いた心行に努めてるからや。
しの 何言うてはるんですか。
吉蔵 おまえこそ、何言うてるんや、わしがしっかりと家業を勤めてるからこそ、これこの様に…。

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