●ラジオドラマ「LIFE」
第13回「終焉」

金光教放送センター
登場人物
・妻 (73歳)
・夫 (78歳)
・医師 (男性)
(病院のノイズ)
医師 奥さん。
妻 あ、先生。いつもお世話に…。
医師 ちょっとこちらの部屋へ。
妻 はい。
医師 このレントゲン写真を見て下さい。
妻 …。
医師 今日の検査結果です。がんが肺に転移しています。
妻 …は、はい。
医師 申し上げにくいのですが、ご主人は、後2カ月ほど。
妻 えっ。だって先生、この前は余命半年から1年って…。
医師 残念です、進行が思っていたよりも早く。でも、このことはご主人にはおっしゃらない方が良いと思います。
妻 病院の裏庭に出て泣いた。そんなことって、後2カ月の命だなんて…。しばらくしてハッと気付く、早く病室に戻らないと夫が不審に思う。急いで洗面所に行った、真っ赤な目が写る、大急ぎで化粧を直し、売店に行く。
夫 どこに行ってるのかと思った。
妻 売店がとても混んでたの、アイスクリーム買ってきたけど、一緒に食べましょうね。
夫 ああ、おいしそうだ。
(駅の雑踏)
妻 こんなに元気そうな人たちがいっぱい歩いているのに、なぜ、よりによって夫が…。また、涙があふれてくる。でも…私はこれからの一日一日を大切にしよう。そして明るく振る舞おう。
(病院のノイズ)
妻 今日はどう?
夫 まあまあだ。
妻 今、入り口ですれ違った中年の奇麗な女の人、見たような気がするんだけど。
夫 お見舞いに来てくれた。
妻 どういう知り合い?
夫 おいおい妬いてるのか。
妻 そうよ。
夫 おれたちが仲人した、会社の田口君の奥さん。忘れたのか?
妻 私は先生に言われてから、夫の命の引き算ばかりしている。けれど命は数えるものではなくて、与えられたものだ。今与えられている命をどう生きるか、最高のものにしてあげたい。
妻 何かしたいこととか、食べたい物ってある?
夫 決まってるだろ、良くなって、家に帰って、夫婦で温泉旅行なんかしたいなあ。
妻 じゃあ、早く良くなるように頑張りましょうね。
妻 数日後、洗濯物を持って廊下を歩いていると、また先日の田口さんの奥さんに会った。軽く頭を下げて部屋に帰る。
妻 さっき田口さんに廊下で会ったわ。また、来て下さったのね。
夫 ああ、ちょっと頼みごとをしてたんだ。
妻 私に頼めばいいのに、水臭いなあ。
夫 怒ってるのか?
妻 そりゃそうよ。
夫 ねえ。
妻 何?
夫 家に帰りたい。
妻 分かるけど、いいのかなあ。
夫 一日だけでいいんだ。
妻 先生に聞いてみるわ。
医師の声 そうですねえ。…では…1泊だけ。何かあったら直ぐに戻って来て下さい。
(鳥の声)
夫 久し振りだなあ。やっぱり家が一番いい。 庭のもみじが奇麗な色だ。
妻 そうね、今年は特に鮮やかな赤。
妻 夫は、とても懐かしく、いとしいものでも見るように、ゆっくりと家の中を眺め、庭を見回す。
妻 ねえ、何かおいしい物作るわ。何がいいかしら?
夫 君のお得意のスープ、後は何でもいいよ。ちょっと書斎に行ってくる。
妻 夫は大好きだったスープをほんの少し飲み、おかゆを少し食べただけで、ベッドに横になってしまった。
夫 久し振りに外に出て疲れたよ。
妻 あらぁ、じゃあ温泉なんて行けないでしょ。たくさん食べて元気にならなきゃ。
妻 私は夫のベッドの脇に座り、昔の楽しかった話ばかりを一人で話し続けた。気が付いた時、ベッドにもたれて眠っていた。私の背中には毛布が…。体力のない夫が無理をして掛けてくれたのだ。
妻 数日後、夫は旅立ってしまった。私は夫の書斎に久し振りに入る。机の上に、リボンをかけた箱とカードが…。
「え、これ何?」
夫の声 お誕生日おめでとう。ぼくはそのころまで、生きていられないかもしれない。今までいろいろとありがとう、ぼくは幸せだったよ。田口さんに頼んで、君へのプレゼントを買って来てもらった。気に入ってくれるとうれしいが。もう一度ありがとう。
妻 (M・涙声)夫の字は乱れていた。箱の中には、きらきら光るペンダントが入っていた。 忘れていた。今日が私の誕生日だったのだ。
