ラジオドラマ「LIFE」第8回「命を授かる」


●ラジオドラマ「LIFE」
第8回「命を授かる」

金光教放送センター


登場人物
・私  (山本・33歳)
・主婦 (木下・35歳・マンションの上階の住人)


 私は33歳、夫と2人賃貸のマンションに住んでいる。職業は小学校の教師。今日は土曜日、料理の腕を振るっていると。

(チャイムの音)

 はーい。
主婦 ごめん下さい。私この上の階に引っ越して来ました木下と申します。3歳と6歳の男の子が居て、うるさくて、ご迷惑をおかけすることがあるかもしれませんので、ちょっとごあいさつに。
 それはご丁寧に。
主婦 山本さんは、お子さんは?
 …は? うちの名前…。
主婦 だって表札見て。
 ああ。…子どもは、いません。
主婦 あら新婚さん?
 え、いえ。
主婦 もしかお子さんいらしたら、うちの子のお友達になってもらおうかと…。
 こちらこそよろしく。
 私は子どものことを聞かれるのが苦痛なのだ。結婚して6年、何度「赤ちゃんはまだ?」と言われたことか。子どもが欲しい! それは切実な願いなのだ。病院で調べてもらおうと出かけたことがある。病院の前まで行って足がすくんだ、私のせいだと言われたらどうしよう…。私は回れ右をして帰って来た。しかしあの木下という、引っ越して来た人の言葉がきっかけになった。絶対に医者に行こうと心に決めた。

(病院のノイズ)

 近くの病院は、近所の人に会うのが嫌なので、わざわざ遠くの総合病院まで出かけた。産婦人科の受付はどこかときょろきょろしていたら。
主婦 (突然)山本さん。
 (びっくり)えっ! 木下さん…!!
主婦 どこか、お悪いの?
 え、…いいえ。
主婦 だって。
 …木下さんは?
主婦 私、友達のお見舞い。
 私も。
主婦 あーら、終わったの?
 ええ。
主婦 じゃあ、そこらでお茶しない?

(喫茶店の雰囲気)

主婦 山本さん、小学校の先生ですって?
 なぜご存じなの?
主婦 誰かに聞いたの。私なんて男の子2人で、もう毎日大変。洗濯機は日に何度も回さなきゃならないし、家の中はぐちゃぐちゃだし、私の時間なんて全然無いの…。

 私はグチを延々と聞かされる羽目になった。子育てが大変って、私はその大変な子育てをやりたいのだ! 「あなたたちが居てくれるから私は幸せなのよ」って子どもたちに言ってあげればいいのに…。それから今度は近所の噂話に展開した。昔はこういう人を放送局と言ったらしい、今じゃあさしずめパソコンや携帯のネットかなあ…。

 しばらくして、胃の調子が悪くなった、私は病院に行った。「多分おめでたですよ、産科に行って下さい」。 ヤッター、ついに子どもが出来た、私は夫とともども喜んだ。

 次の検診で「流産の危険があります」と先生に言われた。私は仕事を辞め、ひたすら無事に子どもが生まれますようにと祈った。

主婦 あんなに待ってたのに、赤ちゃん残念だったわね。
 (びっくり)えっ! どうして…?
主婦 先生も辞めちゃったんだって? 家にばかり引きこもっているの良くないわ。あのね404号室の人が、お子さんが不登校になって困ってるから、勉強誰かに見て欲しいって言ってたわ。山本さん見てあげたらどう?

 たまにはネット夫人も良いことを言う。私は家で「不登校の子どもたちの教室」を始めた。口コミで子どもが数人に増えた。この子たちはかけがえのない命を今生きている。私は失った赤ちゃんのことを思い、この子たちの一人ひとりがとてもいとおしく大切に思えた。

 それから2年たった。赤ちゃんが出来た! また流産しないかと、うれしさの中に不安が入り混じる日々を過ごす。

主婦 山本さん!
 振り返ってびっくりした、そこには私と同じ位のお腹をした、ネット夫人が居た。
主婦 山本さん、もう6カ月位? 私もよ。あははは、もう大丈夫、少しは運動もしなきゃ。分からないことがあったら私に聞いて。

 私は初めてネット夫人を頼もしく思った。

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