●こころの散歩道
「笑顔のワケ」
金光教放送センター
朝、登校しようと慌てて家を飛び出そうとした小学生の娘に向かって、「カッパを持って行きなさいよ。台風が来ていて、午後は雨になるから」と、妻が強い口調で言った。
外は、とてもいい天気で、青空にお日様が輝いていた。そばで聞く私も「…さすがに今日は雨なんか降らないだろう…」と思うほどである。ただでさえ急いでる娘には、納得できない母親の言いつけであろう。しぶしぶ部屋へ取りに行き、ふてくされた顔をして、家を出て行った。おそらく友達は誰もカッパなど持っていないだろう。そう思うと、私は娘に同情するのであった。
「今日はいらんよ」と、余程言おうかと思ったが、それを言えば妻と真っ向からぶつかる。娘には可哀想だが、グッとその言葉を飲み込んだのであった。そして娘が戻るころにはハッキリ分かることだと思った。
ところがである。あろうことか昼前から雨が降り出した。私はビックリした。つくづく言わなくて良かったと思った。
「カッパを持たせて良かったね」と妻に言い、「よくぞあの時、私の口を封じて下さいました。ありがとうございます」と神様に手を合わせた。
「ただいまーっ」と元気な声がした。黄色いカッパを着た娘の笑顔がそこにあった。
その年は台風の当たり年で、全国各地で被害が出た。6月下旬には、私の住む街も大きな台風が通過していった。
友達の山田さんは、その日、仕事を終え、駐車場に戻ると、強風に飛ばされた大きな街灯が、車の真上に落ちていたそうだ。フロントガラスを中心に、前半分がひどく壊れていたらしい。
実は山田さんは、その2カ月前に、自動車保険の更新があり、その時、担当の保険屋さんから「よろしければ車両保険の追加はいかがですか」と勧められた。今までなら断るのに、その時は、素直にその話が聞け、「そうだなぁ」と前向きに考え、2万円の増額にもかかわらず追加することにした。
そんなことも忘れていた矢先に、台風で車を破損したのだった。その修理に、さっそく例の車両保険が利用できることになり、高額な修理代金の全額をその保険で支払うことが出来た。
「まさかこの保険のお世話になるとは、思いもしなかった。何か神様が手配して下さったようだ」と山田さんはニコッと笑って話してくれた。
婆ちゃんが、何やらうれしそうに私の部屋にやって来て、話し込んでいった。
昨日、病院へ定期検診に行き、いつものように、血圧やコレステロールの薬をもらってきたのだという。
普段は気にもしないのだが、その日に限って、ふと薬の説明書を読んでみる気になった。一つ一つ丁寧に薬を並べながら読んでいると、中に一つだけ、見たことのない薬が混ざっていることに気付いた。「おや?」と思い手に取ると、それは口内炎の薬だったというのだ。どうやら婆ちゃんのご機嫌麗しい原因はこれのようだ。
実は4日前の朝のこと。「あっしまった!」と思った瞬間に差し歯が抜け落ちた。「あれっ!どこへ行ったかな?」と探して、やっとこさ見つけだし、早速その日に治療に行って歯を入れてもらった。ところがその噛み合わせが悪く、口の内側を噛んで口内炎が出来、痛くて困っていたのだ。
「これは有り難い」と、早速その口内炎の薬で痛みを取り除くことが出来、楽にならせてもらったというのである。おそらく定期検診の時に何気なく言ったことを聞いて、お医者様が気を利かせてくださったのだろう。
「頼んだわけでもないのに、今、一番使いたい薬をちゃんと頂いている。しかも、いつもは見もしない薬の説明書を読んで、そのことを分からせてもらえた。まったく不思議なことで、神様が手を打って用意してくださったとしか思えない。有り難いことじゃ」
婆ちゃんは、うれしくて、誰かに聞いてもらわずにはいられなかったようだ。
婆ちゃんは思い出すように話を続けた。「私もなあ、4人目の子を身ごもった時は、生活も苦しくて、産むか産まないか迷ったことがあった。教会へお参りして先生に相談したら、『世の中には欲しくても授からない人もたくさんある。せっかく神様に頂いたのだから、産ませてもらいなさい』と言っていただき、産む決心をした。そうして産まれた子が、あんたのお母さんだった。ところが、末っ子のその子が思いもかけず、我が家の跡を取ってくれ、男の子まで産んでくれた。それがあんたじゃ」と、目に涙を浮かべながらそう話し、部屋を出て行った。
「先のことは、誰にも分からん。けど『神様、こういうことだったのですね』と後になって分かる時が来る」というのが婆ちゃんの口癖。ただ運が良かっただけじゃない。「私は神様に守られているんだ」という思い。そしてあふれる笑顔…。そういう人たちだからこそ幸せが運ばれてくるのかも知れない。
婆ちゃんのうれしそうな笑顔の本当のワケが、私にもようやく分かったような気がした…。

