●先生のおはなし
「幼稚園での出来事」

金光教多度津教会
玉城真紀子先生
私は、結婚を機に九州から四国の地へ参りました。5年が過ぎ、長男が4歳、次男が1歳の頃、夫が東京に転勤することが決まり、親子で引っ越すことになりました。
慣れない土地での生活に不安はありましたが、都会での生活に期待もありました。長男は新しい幼稚園にもすぐ馴染み、家を行き来する友達も出来て、楽しそうでした。
ある日、幼稚園のお迎えに行き、次男を園庭で遊ばせていると、「下のお子さんは幼稚園の保険に入っていないから、園児以外は遊ばせないでください」と、PTAの役員のAさんから注意を受けました。前に通っていた園では自由に遊んでいたので驚きました。そう言われればそうかなと思いましたが、Aさんの強い口調に戸惑ってしまいました。
それ以来、お迎えの時はなるべく時間ギリギリに行って、遊びたがる次男を抱っこしたままあやすようにしていました。
ある日、テレビで有名な工作タレントのお兄さんが幼稚園の授業参観にやってきました。親子で楽しく工作し、出来上がったところでお兄さんが、「では、ステージに上がって遊びましょう。一緒にやりたい人、手を挙げて」と声を掛けると、たくさんの子どもたちが手を挙げました。すると、何と私の息子が選ばれました。恥ずかしそうにしながらニコニコとステージに上がり、タレントのお兄さんと遊んで、最後には親子で写真も撮っていただき、とても楽しい時間でした。
後日、母親だけの親睦会があり、子どもたちを夫に預けて参加しました。アルコールも入り、楽しく過ごしていたところ、Aさんが私の前に座って、「あなたのお子さん、少し目立ちすぎよ。転校してきたばかりなんだから、もう少し大人しくしたら」と言われました。工作教室の時にステージに上がったこと以外にも、物怖じせずに過ごす息子のことをあれこれと言われたのです。前回は私の行動を注意されたのですが、今度は息子のことを言われ、驚くとともにショックを受けました。
仲良しのお母さんに相談すると、「私も同じようなことがあったよ。Aさんは自分の娘が大人しいので、いつももっと前に出たらと、歯がゆく感じているのよ。気にしないで」と言ってくれました。
しかし、このようなことが重なり、私にしてみれば楽しく過ごしている息子に、幼稚園での行動を変えるようにと、注意など出来るはずもなく、その後はなるべくAさんに会わないよう、会えばまた何か言われるという気持ちになり、自然と避けるようになっていました。
そんな私の気持ちを感じたのでしょうか、時々息子から、「送り迎えの時、もっとニコニコして」と言われるようになりました。
ある日、Aさんから電話が掛かってきました。ドキドキしながら電話に出ると、内容はAさんの娘の歯ブラシ袋が無くなり、息子のカバンに紛れ込んでいないかという問い合わせでした。すぐに確認し、ホッとしながら、「入っていませんよ」と返事をしました。
次の日、幼稚園の送り迎えはその話題で持ち切りでした。かなり多くの方に問い合わせをしたらしく、皆一同に、「無いよね」と言っていました。
その時、Aさんの友人が、「歯ブラシの袋くらい無くなっても気にしなくていいじゃない」とAさんに言いました。
Aさんは、「私は、物の金額ではないし、犯人探しをしているわけではないのよ。いつも娘に、自分のものを大事にする、大切に使いなさいよ、と伝えている。それを分かってほしいのよ」と話していました。
私はその話を聞いてハッとしました。Aさんが人を責めているとばかり思っていた私には意外な言葉でした。
私が幼い頃からお参りしている金光教では「実意を込めて、全てを大切に」ということをとても大事にしています。「人も物も、全てを大切にする姿勢が大事です」と言われていました。それなのに、歯ブラシの袋を無くした問い合わせがあった時、それぐらいのことで、と軽く見ていました。
落ち着いて考えてみると、Aさんは娘さんをとても大事に育て、PTA活動も、積極的に動かれています。私は少しだけ嫌なことを言われ、もうそれだけで避けようとしていました。Aさんの良い所を一つも見ようとはしなかったのです。幼稚園に息子を送っていくことさえ嫌になりかけていました。
通園する息子本人は幼稚園が替わっても、毎日元気に明るく過ごしているのに、私だけが前の園と比べて、前の方が良かったと、比べても仕方がないことを悔やんでいました。最初の注意を受けた時も次男がケガをした時のことを考えて言ってくださったのにと、そう受け取ることができていなかったなあと、私の心の向きが少し変わりました。
また、私が悲しい顔や沈んだ様子でいることに、どれだけ子供に心配を掛けていたのかなと思いました。
毎日の生活には、色々な出来事があります。しかし、息子が幼稚園に行きたいと思い、幼稚園に通えていること。健康であること。経済的に幼稚園の費用も出せていること。家族仲良く過ごせていること。心の向きを少しだけ変えると、肩の力も抜けたようで、今まで見えていなかったものが見えてきました。Aさんとも向き合えるようになりました。
これからも、全てを大切にして、周りの方と向き合いながら、明るい笑顔で過ごしていきたいと思います。