●ラジオドラマ「LIFE」
第12回「老い」

金光教放送センター
登場人物
・つね (77歳)
・山口 (77歳)
(病院の雰囲気。カーテンをそっと開ける)
つね 山口さん、具合どう?
山口 あんた…どなた?
つね 嫌あねえ、顔見て分かんないの。
山口 えー…?
つね 小学校と中学が一緒だった、米原つね。
山口 えっ、近所に住んどった、つねちゃんか。へえー、あんたがあのつねちゃん…。
つね 昨日、喜寿のクラス会だったのよ。皆に会いたいなあと思って、出て来たら、あなたのこと聞いてびっくりして、取りあえずお見舞いに来たの。で、どうしたのよ?
山口 腹を切った。
つね そう、大変だったのね。
山口 何でわしだけこんな目に遭わんならんのかと思うたら情けないわ。皆ピンピンしとんのに。
つね あら、違うわ。クラス会でも、腰が痛いとかひざが痛いとか、血圧が高いとか、そんな話ばっかり。
山口 へえー。
つね ねえ、昔、母に聞いた話なんだけど「さいかけ」って知ってる?
山口 さいかけ、それ何や。
つね お百姓さんの言葉なんだって。毎日畑に行って耕していたら、くわの切れ味が鈍る。鈍った時に農機具屋さんに持って行って、くわの先に鋼を足して焼き直してもらうの、そしたらくわが前より一層切れ味が良くなるんだそうよ。
山口 わしとどう関係があるんや?
つね だから、あなたは今まで一生懸命働いてきた。ここらで「さいかけ」をして、また元気に新しく出発ってこと。だからゆっくり治そうね。
山口 (涙声)…おおきに、そんなこと言うてくれたのはつねちゃんだけや。
ところでつねちゃんはどないしてるんや。
つね 私…? 結婚してからずーっと横浜。
山口 そら知ってる。
つね でね、10年ほど前に夫が死んだの。
山口 そうか…。
つね しばらく一人暮らししてたの。そうしたら、東京に居る息子が一緒に住もうって言うの。
山口 結構やないかい。
つね うん…はじめは良かったのよ。孫の面倒とか、家事とか手伝ってたから。だけど孫も大きくなっちゃったし、家のことも年だからって、手伝わせてもらえないの。
山口 結構なご身分やないか。
つね 結構なものですか。人の役に立つから生きがいがあるんで、何もしないでボーッとしてるのってたまんないわ。最近、時々思うの。
山口 何を?
つね 何もすることがない私なんか、生きてる意味が無い。そのうちに家族の迷惑になったらどうしよう。その前に死んでしまいたい、って。
山口 つねちゃん。
つね 何よ改まって。
山口 さっき、わしのこと励ましてくれたのに、あんたの話聞いてたら、えらい矛盾してるやないかい。
つね そう?
山口 病人の前で、元気な人が「死にたい」やなんて、ど厚かましい話や。
つね ごめん。
山口 そんなら、外へ出て行って、人の役に立ったらええんや。年取っても人の役には立てるんやで。
つね 外って…?
山口 うちの嫁はんなんか、ほとんど家になんかおらへんで。まあ、わしのことがうっとうしいのかもしらんけど。
つね あ、ひがんでる。
山口 近くの老人ホームに行って、「お話ボランティア」言うのをやってる。
つね へえー。年寄りが年寄りの話し相手?
山口 そや、そんでな「同じ話を何回も聞かされる」て、家に帰って愚痴るんや。「ほんなら辞めたらええやないか」て言うても行くんや。こないだなんか「おじいさんにプロポーズされた」なんて、まんざらでもない顔で言うねん、アホらして聞いてられへん。どっちがボランティアされてるのか分からへんなと、わしはいつも言うてる。
つね へえー。
山口 同じ生きてるんやったら、嘆いて暮らすより、楽しいに暮らしてる方がええと思うけどなあ。
つね ありがとう。
山口 ちょっとは参考になったか?
つね うん。で、あなたは何をしてるの?
山口 わしか? わしは狭い庭やけど畑にして、野菜を育ててる、楽しいで。そうや、このあいだな、畑の草取りしてたら、四つ葉のクローバー見つけた。でその時、つねちゃんのこと思い出したんや。
つね え? ああ、小学校の帰り道、あなたが探してくれた。あれ、どこに行ったかなあ…。
山口 そんなもんとっくに無くなってるやろ。十年一昔て言うけど…。
つね 私たち、五十年一昔ね、あっという間。
山口・つね (笑う)
