●先生のおはなし
「行ってきます!」

大阪府
金光教鳳教会
工藤由岐子 先生
「行ってきまーす!」。
朝、学校に行く子どもたちを「行ってらっしゃい」と見送ります。特別なことではないかもしれませんが、私にとってありがたく思える瞬間です。
今日は、息子、直人の話をさせて頂きます。
直人は幼い頃、アトピーがひどく、顔や体に湿疹が出来やすい子でした。特に夜寝る時は、体温が上がるからか、かゆくてたまりません。爪でかくと血が出てしまいます。私が背中をかいてあげると、気持ちが良くなって、どうにか眠りにつけるという日々でした。
幼稚園に入って、アトピーはマシになったものの、頻繁に風邪を引くようになり、そのたびに、ぜんそくの発作を起こすようになりました。体力を付けようと水泳を始めましたが、すぐに治るものではありませんでした。お医者さんには「とにかく風邪を引かさないことです」と言われるのですが、集団生活の中ではそうもいきません。遠足や運動会のシーズンは、いつも調子が悪くなり、参加は出来ても、行事を終えた後は、すぐにダウン。夜にぜんそくの発作が出ます。体を横にするより、座った姿勢で寝る方が楽だと言います。しかし、それでは熟睡が出来ませんので、寝苦しい夜が続きました。
そして小学校に入ってからも、よく休みました。欠席する場合は、その理由を連絡ノートに書いて担任の先生に届けるのですが、毎度毎度、同じことを伝えるのがつらくなり、つい私の心情まで書いてしまいました。
「直人のお友達は皆、元気に登校出来ているのに、うちの子どもは、ちゃんと学校に行くことが出来ません。苦しそうな姿を、そばで見ているのも胸が痛みます…。代われるものなら私が代わってあげたいのですが…」
すると、先生は次のように書いて励まして下さいました。
「病気はつらいでしょうね。でもその代わりに、自分が苦しんだ分、人にも優しくなれるのではないでしょうか。人の痛みも分かってあげられる子どもさんだと思います。これは学校で学ぼうと思っても、そう簡単に学べるものではありません」
先生の言葉が胸に響きました。「悪いことばかりではないんだ」と思いました。
翌朝、回復した直人が、ランドセルを背負って「行ってきまーす!」とうれしそうに出掛けた時は、親として一番ホッとするのです。
子供を見送りながら、ふと自分の昔のことを思い出しました。
「私の母も、いつも見送ってくれたなあ…。手を振られると、ちょっと恥ずかしかったりもしたけど。途中、忘れ物に気付いて取りに帰ったら、母はいつも、神様をお祭りしている所で、拝んでくれていたなあ」
今も、その一生懸命お祈りしてくれていた、母の後ろ姿が記憶に残っています。
さて、そんな直人が中学校に入ってからは、おかげで、ずいぶんぜんそくが良くなりました。これまでの反動も出てか、野球部に入りスポーツに打ち込むようになりました。うまくはなかったのですが、本人の思い入れが通じたのか、3年生になったある日、私に「背番号1番を貰ったで! 明日練習試合やねん。背中にゼッケンを縫い付けといて!」と、それを渡された時には、ビックリしました。翌日の試合には、家族中で応援に行きました。結果は、1対0で負けましたが、緊張しながらも一生懸命投げ切った直人の姿に、思わず涙が出ました。
ところが一方で、子どもの通う中学校は当時大変荒れていて、物が壊されたり盗まれたりすることが、毎日のようにありました。そんな中で、クラスメートのお弁当が、次々と食べられてしまうという事件が、何日も続きました。偶然にも、友達のお弁当が男子生徒に食べられているのを直人が見掛けて、すぐに先生に言いに行ったそうです。ところが、それを見ていた誰かが、本人に知らせたのでしょうか。翌日、直人の所まで来て、胸ぐらをつかみ「お前、先生にチクったやろ!」と迫ってきたそうです。休憩時間のたびにやってくるので怖くなって、早退してしまいました。
翌朝、登校を渋る直人に「勇気を出してよう言いに行ったなぁ」と言いつつも、内心「えらいことに巻き込まれてしまった」という気持ちの方が勝り、私まで憂うつになっていました。肩を落として家を出ようとする直人に、主人が「怖がらずに、堂々としてたらええんちゃうか。お前は間違ったことしてないのやろ」と言いました。私は「どうぞ全てが良い方向にいきますように」と祈るばかりでした。
学校を終えた直人が、安堵した様子で帰って来ました。「担任の先生が説得してくれて、ちゃんと解決したよ。もう元通りになったわ」。それを聞いて主人も私も、胸をなで下ろしました。
私は次の日以来、朝、子どもたちを送り出す時には「どうか、道中事故や過ちのございませんように…。友人関係が都合良くいきますように…」と、母が昔、私のことを願ってくれていたように、いっそう心を込めてお祈りするようになりました。
私は、きっと神様も、親のような思いで、たとえどんな問題が起こってきても「どうか、くじけることなく乗り越えて欲しい。」と私たちのことを願って下さっているような気がします。その願いの中で、私も子育てをしながら、神様に育てて頂いているのでしょう。
あれから5年。直人はもう大学生です。ボランティア活動を始めたようで、今日も元気に出掛けて行きました。
