君も家族だよ


●こころの散歩道
「君も家族だよ」

金光教放送センター


 わが家を建て替えることになった。念願の新築だ。とてもうれしいことなのに、住み慣れた家を取り壊すのは、さすがに寂しい。片づけや引っ越しも大変だし、仮住まいの不便さにも参ってしまう。けれども、ボクたち家族よりも困っているのは、どうやら、犬のクッキーのようだ。
 クッキーは、小型犬のオス。13年前にわが家にやって来た。家の中で犬を飼うなんて大反対だったボクが、一目会ったその途端、一番乗り気になった。何だか、よくある話だ。
 今ではよたよたの老犬だけど、それでも、街行く人がたいてい可愛いと言ってくれる。そのクッキーは、これまでは、前足でドアを開けて、所定の位置の自分のトイレでちゃんと用を足していた。とってもお利口なのだ。ドアには丸く、前足の跡がくぼみのように付いていたほどだ。
 クッキーにとっても、そんな愛すべき我が家が無くなった。何せ老犬。今さら新しいトイレの場所を覚えるのは面倒なようで、散歩に連れ出さないとおしっこをしない。散歩すると家のあった場所に帰りたがり、「どうしてボクの家が無いの?」と、不思議そうに工事現場を見つめている。そんなクッキーは、ボクら人間以上に頑張っているのかも知れない。
 工事中は、仮の住まいに引っ越しだ。ところが、やっと見つけたアパートはペット禁止だった。これには困った。クッキーはボクたちと一緒にいないと寂しがるのだ。「仕方ないなあ。大事な君のためだ」。ボクは家族とは別の所で、クッキーと寝泊まりすることになったのだった。

 ボクがこの犬を大切にするのは、単なる犬好きというだけの理由ではない。
 実は、クッキーが家にやって来て間もないころのこと。ちょっと目を離したすきに、突然外へ飛び出して、バス通りで自動車にはねられてしまったのだ。
 鼻から血を流してぐったりとしているクッキーを抱きかかえて、ボクは必死で動物病院に走った。前歯は折れ、体は全く動かない。何とか命は取り留めることができたのだけれど、頭や腰を打ったのか、後ろ足に損傷があり、目もうつろだ。お医者さんからは、「重い後遺症が残ることを覚悟して下さい」と告げられてしまった。
 小学生の息子と娘も、悲しくて泣いてばかりだ。それから、おしめを当てたり、水をスポイトで飲ませたりと、懸命の介抱が続いた。しかし、「こんな動けない犬を、どこまで面倒見なくてはならないのだろうか」という思いがよぎってしまう。ボクは、子どもたちに「クッキーがこのまま動けなくても、ちゃんと面倒を見て可愛がることができるかい?」と、問いかけた。すると、「せっかくうちに来た子だもん。家族だからね」と答えてくれた。その言葉にボクは、クッキーに対する子どもたちの思いの深さを、改めて知った。
 「そうだ、家族だ。犬だと思わずに、我が子のように大切にしよう。どんなけがや病気でもあきらめてはいけない」と思った。子どもたちも一生懸命、神様に祈ってくれた。
 その後、クッキーは、お医者さんに補助車を作ってもらった。おかげで、外へ散歩にも行けるようになった。前脚だけで懸命に走る姿は痛々しく、悲しい気持ちになることもあったけれども、それがリハビリになる。車を付けないと、後ろ脚を引きずる癖がついてしまうからだ。その甲斐あって、だんだんに後ろ脚で立とうとするようになり、ついには四本の脚で立ち上がることが出来たのだ。あの日のことは忘れることはできない。そんないきさつで、ボクは、クッキーを、ことのほか大切にするのだ。
 この夏、引っ越しや仮住まいの疲労から、ボクはドクターから静養を言い渡されてしまった。仕方なく休んでいるボクの傍らで、クッキーが眠っている。昔はよくほえたのに、今ではほえるのもおっくうなのか、ほとんど一日中眠っている。よくこんなに寝てばかりいられるなあと思って見ていると、昼と夜では寝方が違うことに気づいた。夜は、少しの物音でも、パッと起きて、周りを見渡し、小さいながらも番犬の役目を果たそうとしている。その分、ボクたちが起きている時間帯は、安心してお腹を見せていびきをかいて熟睡しているのだ。
 そうだ、君がこうして安心して眠れるように、ボクも君がいてくれるから、安心していられる。安らぐってこういうことなんだ。
 ときおり、くんくんと寝言を言う。君はいったいどんな夢を見ているのだろうね。小さいうちから親犬と離れて生きてきた君にとって、ボクたち人間は本当の家族なんだ。犬はもともと群れをなして生活する動物だ。リーダーと認めたものを中心に集団を整える。だから、家族間の関係を見極める力があると聞く。自分勝手に生きている近頃の人間よりずっと家族を大切にするのかも知れない。
 家族は、時には煩わしいこともある。人の数だけ問題も起こるしけんかもする。自分の都合通りにはいかないことばかりだ。けれども、それでこそ家族なのだ。普段は気付かないけれども支え合っている。だから安心して暮らすことができる。そんな家族の大切さをクッキーは教えてくれる。

 ボクが情けない思いでいると、じっと顔を見つめる。君はボクの気持ちが分かるのかい。君はほんとに手が掛かるけれど、ボクも君と同じだね。こうして家族に心配をかけているのだもの。
 歯が抜けて、目は白内障。よたよたして電柱に頭をぶつける。耳も聞こえにくいのかも知れない。けれども、老いても、病気になっても、一緒にいよう。家族なのだから。

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