ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」第1回「突然の嵐」


●ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」
第1回「突然の嵐」

金光教放送センター

登場人物
 ・近藤こんどう       20代
 ・梅子うめこ(近藤の妻) 20代
 ・車夫       30代
 ・教祖       68才


梅子 うちの人は、幼いころ占い師から「25歳が寿命である」と言われていた。来年がその年に当たる。そこで今日あの人は、知り合いの信心深い方に、相談に行った。私は心配で家事も手につかず、帰りを待っていると……。

近藤 ただいま。
梅子 あ、お帰りなさい、それで何て言わはりました?
近藤 うん、岡山の大谷という所に金光様という生神様がおられる、そこへお参りしたらどうやと言われた。
梅子 そうですかそうですか、それは良かった。そやけど、ここ大阪から岡山とは、えらい遠いですなあ。
近藤 何の何の、ここの家はおやじの代まで、江戸と大阪を行き来する飛脚を営んで来た家や、江戸までの150里も、ほんのひとまたぎやった。岡山なんて50里ほどやろう。
梅子 そうかてあんたのお体にこたえるのと違いますか?
近藤 いいや、それに神戸までは汽車があるやろ。
梅子 ほんま、そうでしたなあ。

梅子 私らが旅に出たのは明治14年の年の初めだった。神戸で汽車を降り、後はひたすら道を急いだ…。

近藤 今日中に姫路まで行きたいもんやなあ。
梅子 へえ、お疲れやありませんか?
近藤 ちょっと…疲れたなあ。
梅子 ほな、どこかで一休みしましょうか。
近藤 うん。
梅子 あ、あそこに人力車がありますわ、あれに乗ったらどうやろう?
近藤 おお、それはええわ。
梅子 けど…何や人相の悪い車屋さんですなあ。
近藤 人相が悪いからいうて、悪い人とは限らん、腕も太いし力も強そうや、早いこと走ってくれるやろ。
梅子 そうかもしれまへんな。

近藤 おーい、車屋さん。  

梅子 しばらく走った後だった。とある一軒の茶店の前で人力車が突然止まった。

車夫 旦那、今日は昼飯もまだなんで、ここの茶店で腹ごしらえをする間、ちょっくら待っててもらえまへんか。
(茶店の人に)おい、ばあさん、酒とつまみ物、早いとこ頼む。今日の寒さは格別や。
近藤 ほな、私らにはお団子とお茶でも。

梅子 そのうちに小雪がちらつき始めた。車屋さんは一向に腰を上げず、お酒のお代わりばかりしている。一体いつになったら…。
近藤(車屋に)車屋さん、もう日は暮れるし、雪は降り始めてるし、早う姫路に行きたいんやけど。
車夫 旦那、姫路なんてもうすぐそこですわ。そう追い立てられると、せっかくの酒の味もまずうなってしまう。

(山寺で鳴る鐘の響き)

近藤 車屋さん。
車夫 へえへえ、ほなどっこいしょっと。お待たせしましたな。

梅子 緩い坂道にさしかかる、冷たい荒々しい風が吹き付けてきた、その時。

近藤 ちょっと車屋さん、こんな所で梶棒かじぼう下して…、一体何…?
車夫 旦那さん、これから先の道はきついんですわ、車代もうちょっと上げてもらわんと。
近藤 でもそれじゃ約束が…。
車夫 ほんなら、降りて歩いて行ってもらおか。これから先、道はきついて言いましたやろ。
梅子 車屋さん! そんなこと言うたかて……。
近藤 仕方ないな、そんなら…。

梅子 …と、うちの人が懐から財布を取り出した時。 

車夫 (猛々しい笑い) 結構持ってるやないか(ハハハ…)
近藤 ちょっとあんた、わしの財布に手え出して! 何をするんや!
梅子 やめて!

(激しい雷鳴に雨、風)

車夫 何や、こ、こ、これは? 嵐や…! うわあああー!

梅子 ものすごい風で、私らの乗っている人力車は、突然くるりと向きを変え、今来た道へ吹き返されるように転がり戻って行く。強い雨と風で私は生きた心地もなく、必死で夫の腕につかまる。…と、一軒の家の前で車が止まった。

(戸をドンドン叩く)

近藤 こんばんは、こんばんは! ここに泊めて下さいな! お願いします!

(囲炉裏の火のはぜる音)

梅子 良かったですなあ、泊めてもらえて、一時いっときはどうなることかと肝が冷えましたわ。
近藤 梅子、空を見てみ、さっきの嵐がうそのように星が瞬いてる。
梅子 ほんまになあ、あれは一体何でしたんやろな。神様が守ってくれはったんですやろか…。

近藤 やっと大谷に着いたな、もうすぐや。あ、あそこと違うかなあ…。
梅子 そうですやろか、随分お粗末なお社のようですけど。 
近藤 それはそうやけど。梅子、あそこに肥えた黒髪のご老人が座っておられる、お弟子さんやろうな。
梅子 そうですやろ、金光様てどんなお方か、あの人に聞いてみましょう。
近藤 ごめん下さい。
教祖 あなた方は、大阪から参られましたのか?
近藤 えっ、もしや金光様?
教祖 よく遠方からお参りに来られました。道中でも、神様の良いおかげを受けられましたね。
近藤 は、はい、そのとおりでございます。
梅子 ありがたいことでございますが、金光様。
教祖 何ですか?
梅子 失礼ながら、あまりにもお社がお粗末なようにお見受け致しますが…。
近藤 梅子、何ちゅう失礼なことを。
教祖 はは…これで結構。神様が社に入られたらこの世界は暗闇です。この神様は天と地が社、これで十分です。
梅子 天地が社? 
近藤 ははあ…、そう言うたら、私たちがここへ参ります道中はおろか、日本、いや世界中が社でございますねえ。
梅子 それでしたら、私どもが昨日の災難からお守り頂いた訳が、よう分かりました。
近藤 金光さま、ありがとうございます。心の雲が晴れました。


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