●私からのメッセージ
「奇跡の軌跡」
三重県
金光教松阪新町教会
水野照雄 先生
おはようございます。三重県、金光教松阪新町教会の水野照雄と申します。今日は、今年大学を卒業した女性のお話をします。名前は由香さん。
2020年、彼女が受験生の時のことです。お正月に家族そろって金光教の本部にお参りして、大学合格祈願をしました。そして、金光教の教主である金光様にお話をして、お願いしました。金光様は、「神様にお願いして、ちゃんと努力すれば、あなたにとって一番良い道へ導いていただけるからね」と言ってくださって、その言葉を心の支えに頑張って、最後の最後、3月になって、ようやく、一度は諦めかけたけどほんとは一番行きたかった大学に合格することができた、という話…。実は、以前、この金光教のラジオでもお話ししたことがあるので、既に聞いてくださった方もあるかもしれません。今日のお話は、それからあとの出来事です。
新型コロナウイルス感染症の流行拡大とともに、由香さんの大学生活は始まりました。なかなか思うに任せぬことも多かった中、ようやく3年生の時、待望の語学留学が決まります。フランスの大学へ約半年間、通うことになったのです。
フランスへ渡った最初の日のことです。コロナの影響で直行便がなく、長い長い時間飛行機に乗って、ようやくシャルル・ド・ゴール空港に。留学先の街はパリから200キロメートルほど西へ行った所なので、そこまでは長距離バスでの移動になります。普通なら4時間ほどの道のりです。が、ここでトラブルに見舞われます。しばらく走った所でバスが動かなくなってしまったのです。車両の不調ということで、途中で何時間も待たされたあげく、故障は直らず、代わりのバスが手配されることになりました。そのバスが来るまで、また、待たされます。結局、元々の予定では夕方にはその街に到着し、留学先の大学が準備してくれた寮に入るはずだったのが、遅れに遅れて、着いたのが夜中の11時を過ぎてしまったのです。日本よりも緯度の高い所ですが、さすがにもう真っ暗です。
長時間の移動で疲れもたまってるし、何より、知らない人ばかりの中ひとりぼっちで、心細かっただろうと思います。
バスを降りて、さてどうしたらいいのか…。その時、声をかけてくださった方がありました。同じバスに乗り合わせていた二人の女性、現地の方でした。東洋人の小さな女の子が、大きなスーツケースを持って一人でポツンと立っている。きっと、困っているに違いない、そう思われたのでしょう。
「どうしたの? もう遅いから、うちに泊まっていきなさいよ」。そんなふうに声をかけてくださったのです。もちろんフランス語でのやりとりです。その二人は、この街に住んでいるお母さんと娘さんで、娘さんが由香さんよりちょっと年上のお姉さんでした。
ご好意に甘えて、その日は、そのご家族の所で一泊お世話になり、次の日、寮まで車で送ってもらうことにしました。その時、「何か必要なものがあれば」ということで、台所用品などを貸してもらいました。もう使っていないからと、結局もらい受けることになりました。それだけでなく、「また、うちへ遊びにおいで」と言ってくれて、連絡先も交換しました。
その後、休みの日に街を案内してもらったり、一緒に買い物に行ったり、お宅へお邪魔したり、長期休暇には泊めてもらったりして、その家族と親しくなっていきました。時には由香さんが準備をして、家族に日本食を振る舞ったこともありました。
もちろん学校でも、いろんな国籍の友だちができて、それも大切な体験でした。でも、誰も知る人のない遠い外国の街で、このように家族のような存在ができたことは、半年の留学生活において、どれだけ心強いことだったでしょう。
留学が終わって日本に帰る時には、「今度は日本に来てね」と、再会を約束するほど、仲良くなっていました。
こんなことがあるんだな、と思います。たまたま同じバスに乗り合わせた、たまたま同じ街で降りる人たちだった。もし何もなければ、何の関係を結ぶこともなく、きっとすれ違っていただけでしょう。でも、トラブルのおかげで、と言うとちょっと言い過ぎかもしれませんが、そのことがあってこそ、出会うことができ、親しい間柄になることができた、そのように思えてなりません。
人間万事塞翁が馬、こんな諺があります。悪いことがあれば、良いこともある。そういうことってあるよね。そんなふうに思われる方もあるかもしれません。
でも、私には、もっと深いところに〝何か〟があるように思えるのです。思い出すのは、由香さんが大学受験の時に、金光様からかけてもらった言葉です。「神様にお願いして、ちゃんと努力すれば、一番良い道へ導いていただける」。それは、大学へ入った時のことだと、私は思っていました。でも、それだけではなかったんです。その道は、そのあともずっと続いていたのです。そう。だから、こんな奇跡みたいな出会いに導かれたのだと、今はそんなふうに思います。
由香さんは、その後も学校のことや、卒業・就職にまつわるいろんな出来事で、またまた迷ったり悩んだり、ときには行き詰まったりしながら、でも、神様にお願いして、一つひとつの事柄をクリアしていきました。きっとあの日あの時もそうであったように、今も、神様といっしょに、その道を歩んでいます。
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