●教師インタビュー
「何もせんでいい」

金光教放送センター
(ナレ)三重県伊勢市にお住まいの濱出進さん、72歳。濱出さんは、代々金光教の信心をする家庭に生まれました。現在濱出さんは、建築設計事務所を経営し、ご自身も一級建築士として活躍されています。
濱出さんは、40代で伊勢市内の歴史的な町並みの保存に携わるなど、とても順調に仕事に励んできました。しかし、48歳の時、バブル崩壊が起こり、世の中に不況の波がやってきました。
(濱出)バブルはじけるまでやから、いやが応でも、断るぐらい仕事は頂いていたわけですよ。仕事も順調に来てたんですけど、バブルが崩壊して、やっぱり仕事がすごく無くなってくる。役所の仕事なんかもえらい入らないというような状況になってきて、段々気分も落ち込んでくるということで、うつ病と診断されたんです。
とにかく、うちは元々、所員が7人ぐらいおって、その人らの給料をどうしようこうしようで多分うつ病になったと思うんですよ。毎月1千万以上のお金を何とかしよう、しよう、というんで、やっぱりどうにもならんと行き詰まってしまいました。
大阪の病院を紹介してくださったんです。色々調べてもらって、脳波を調べていただいたりして、「うつ病ですねえ。ガンで言うたら末期症状」ということで、「治りにくいなあ」と。
「さあ、どうするか」ということになったわけです。
(ナレ)思ってもみなかった事態に陥り、濱出さんは困りました。仕事が激減した中で、どうしたら従業員と家族を路頭に迷わせなくて済むだろうか、自分が何とかしなければいけないと思い悩むのですが、仕事は増えず、自分の病気も良くなりません。
その時、思い出したのは、以前から知り合いだったある教会の先生のことでした。
「あの先生だったら、何とか助けてくれるかもしれない」と、濱出さんは先生のところまで訪ねていきました。
(濱出)先生をふと思い出して、お参りさせてもらったんですよ。
そうしたら先生が、人を助けることも大切やけども、あんたが助かってへんのやろ。だからあんたが助からなあかんわなあ。だから、あんたが助からんことには家族…奥さんもそうだし、子どもたちも助かっていかんわな。だから、まず第一に、「我が身の上におかげを十分受ける」ということをせなあかんわなあと。じゃあ、何をしたらいいんやって言ったら、「何もせんでええ」っておっしゃるんです。「私が全部引き受けする。何にもせんでもええ。朝参りも今までずっと続けてきた朝参りもせんでええ。教会もお参りせんでええ。その代わり私が一生懸命御祈念させてもらうからな。あんたが我が身の上におかげを頂くように私が責任持つから、あんたは何もせんでもええよ」ということを仰ってくださったんですよ。
やっぱり人って不思議なもんで、「何にもせんでええ」って言われると、「ああ」って…そういうなのを気が晴れるって言うたらおかしいけども、解かれるとか放たれるって言うか。だから、そういうようなところがあって、「本当に助かったなあ」という気がしましたね。
「ああ、お任せしていいんだな。あ、肩の荷が下りた」と思いました。
(ナレ)このことがあって、濱出さんは病院に通いながらも仕事を続け、その折々に先生のところへお参りに行くようになりました。
教会にお参りすると先生は、「よく来たな。ゆっくりしていきなさい」と言ってくださり、濱出さんは本当に何もせず、教会でただただのんびりするだけだったそうです。食事を頂き、時には教会に泊めてもらって、とにかく心と体を休めさせてくれました。
そういうお参りが濱出さんにとって、本当にホッとできる時間でした。何か神様に守られているような、神様に包まれて休んでいるような、そういう心持ちがしたそうです。
(濱出)そこで徐々に良くなってきたというかね。段々に薬を頂きながら、先生の所へ泊めていただいて、お話を聞かさせていただいたりとか、そういうことをしながら、まあ薬が切れるまで7年掛かりましたですけどね。7年掛かった間に、どうにかこうにか、お医者さんは、「まあ治りにくいな」というのが、7年掛かってうつ病を脱することができたわけですよ。
(ナレ)濱出さんは、自分がうつの時でも、仕事は不思議と続けることができたと振り返ります。苦しい状況でも、色々なところから仕事を頂くことができた。それは決して自分の力ではなく、やっぱり神様が守ってくださっていたのだと、そのように話してくださいました。
濱出さんに、「同じような状況で苦しんでいる人たちに、自分の経験を通して何か伝えられることがありますか」と尋ねてみました。
(濱出)自分が助かりなさいよと。悩み苦しんでる人って目先のことしかやっぱり分からへんのですよ。目先のことを放さなあかんわけですよ。悩むんは当たり前。誰でもしょうがない。色んなことを迷うんわ、これは人間なんやと。これは当たり前のことと違うかと。
そやけども、自分では出来んから、やっぱりそこで神っていう存在、神様っていう存在がやっぱりある。だから「神様、何とかしてください。何とかしてください」ってお願いしたら、何とかしてくれるんが神様だと思う。この神様だと思う。そこだと思うんですよ。
私はそれで今、生かしてもらってるんで。
(ナレ)うつで苦しかった時、お世話になった先生だけではなく、色んな人たちが助けてくれたそうです。家族、友達、色んな人の祈りがあって今日までくることができた、その恩に報いる自分でありたいと願う濱出さんでした。