当たり前の中に…


●先生のおはなし
「当たり前の中に…」

金光教今治いまばり教会
塚本一眞つかもとかずまさ 先生


 皆さん、おはようございます。
 病気になって初めて健康のありがたさが分かると言います。
 以前、ある方が大病を患い、長期入院を余儀なくされました。苦しい入院生活が続き、半ば死を覚悟するほどの心境になったそうですが、適切な治療のかいあって徐々に回復していきました。数カ月経ったある日、初めて散歩の許可がおり、冬のやわらかな日差しを浴びながら病院の庭を歩いていると自然と涙があふれたと言います。
 「ありふれた景色を自分の目で見ること、ありふれた場所を自分の足で歩くことがこれほど素晴らしく、ありがたいことだったのか。そして、これからは欲張りなことばかり言わずに、今あることにもっと感謝できるような人間になろう」と決意されました。しかし、その後、退院して元の生活に戻ると、あれほどの感動やありがたさが薄れ、健康なことが当たり前になってしまったと反省されていました。
 金光教の教祖、金光大神こんこうだいじん様の教えに、「痛いのが治ったことだけがありがたいのではない。いつも健康であるのがありがたいのである」とあります。
 いつも健康であるのがありがたいことは頭では分かっているつもりでも、どれほどの実感を持ってありがたいと感じているだろうかと自問してみると、日常の忙しさにかまけて、ついつい感謝の心がおろそかになっています。大切なものほど身近にあり、目に見えにくいものなのかも知れません。
 数年前、ある老人ホームでボランティアをさせて頂いた時のことです。目の不自由なお年寄りの方々とゲームをしたり、一緒に歌を歌ったり、楽しい時間を過ごしました。ちょうどお正月の時期だったので、入所されているお年寄りお一人お一人に新年の抱負を語っていただきました。
 ある人は「もっと歌が上手になりたい」、またある人は「今年も元気に過ごしたい」と抱負を語る中、最後に口を開いた男性がおもむろに、「抱負というか、これは私の願いですが、たった一度でいいから、孫の顔をこの目で見てみたい」とおっしゃったのです。私は思わず息をのみました。生まれつき目が見えないと言われるその男性の「…たった一度でいいから」という切に願う希望を、私はすでに叶えてもらっているのです。目が見えるということ一つ取ってみても、当たり前なことではありません。
 何かを無くした時に、人は初めてそのありがたさが分かりますが、無くす前に、教えにふれて、そのありがたさに気づくことが出来れば、より良い人生を送ることが出来ると思います。
 ここで、このラジオをお聞きの皆さんと一緒に、今あることの有難さを、頭ではなく、心と体で感じていただきたいと思います。
 まず始めに、大きく深呼吸をしてみましょう。はい、息を吸って下さい。はい、吐いて下さい。心が落ち着きましたか? 
 では、まず両手を上に挙げて、頭を優しく触って下さい。皆さん、触りましたか? まだ恥ずかしくて触っていない人はいませんか? それではまいります。
 頭さん頭さん…いろいろ考えることが出来てありがとうございます。ありがとうございます。次はそのまま下に行って、目を触って下さい。お目々さん、お目々さん…世の中を見ることが出来てありがとうございます。次は鼻にいきます。お鼻さん、お鼻さん…いろんな香りを嗅がせていただいてありがとうございます。次は口にいきます。お口さん、お口さん…おいしい食事を頂くことが出来、いろいろお話し出来てありがとうございます。次は、手を横に移動して、耳を触って下さい。お耳さん、お耳さん…いろんな話や音を聞かせて頂いてありがとうございます。
 次は、自分を抱き締めるように両腕を触って下さい。お手々さん、お手々さん…いろんな物や料理を作れてありがとうございます。次は、心臓を触って下さい。ドクドクドクと動いていますか? 止まっている人はいませんよね? お母さんのお腹の中から今まで一度も休むことなく動き続けている心臓さん。体中に血液を運んでくれています。
 次は、お腹さん、胃さん、肺さん…ありがとうございます。排泄はいせつのことを大便、小便と言いますが、あれは天地の親神さまからのお手紙です。大便は大きなお便り、小便は小さなお便りと書き、目に見えない体の中のことをお便りで教えてくれます。毎日のお通じありがとうございます。ありがとうございます。
 では、次に足を触って下さい。足さん…いろんなところに行かしていただいてありがとうございます。
 最後に自分自身をギュッと抱き締めて下さい。ご先祖様から脈々と続くいのちの流れの中で、今この瞬間を生きているお互いです。
 「感謝しましょう」「ありがとうございます」と口では言いますが、実際、心臓の鼓動を感じたり、直接、体を触ると、より実感としていのちの働きを身近に感じることが出来ると思います。
 「自分の体」と思っている人がほとんどですが、呼吸、血液の循環、食べ物の消化、排泄など、どれ一つ取ってみても自分の力で出来ているものがあるでしょうか? やはり生かされて生きているお互いだと思います。皆さん、夜寝る前にでも、頭の先から足の先まで触りながら、「今日も一日ありがとうね」と体をいたわってあげて下さい。そうすると、いのちも体も喜んでくれると思います。
 「痛いのが治ったことだけがありがたいのではない。いつも健康であるのがありがたいのである」
 最後までお話を聞いていただいてありがとうございました。皆さんにとって、今日一日が素敵な一日となりますよう、お祈りさせていただきます。

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