しあわせ探し


●こころの散歩道
「しあわせ探し」

金光教放送センター


 小学校に入学したばかりのマキちゃんは、夢と希望に胸を膨らませていました。
 「1年生になったらね、友達たくさん作るの。お勉強も頑張るの」

 けれど、入学して2、3カ月経ったころ、なんだか元気がなくなり、言葉数も少なくなりました。マキちゃんはすっかり笑顔をどこかに忘れてきてしまったようです。
 しまいには、「おなかが痛い。学校を休む」と言い出したのです。
 そこでお母さんが聞きました。「どうしたの?マキちゃん?」。
 すると、「だって!楽しくないんだもん! 思っていたのと違うんだもん! お友達も全然出来ないし、お勉強だって分かんないんだもん!」と、涙を浮かべています。
 「あらあら……それはつらかったわねぇ……。でも、マキちゃん、嫌なことばかりで、楽しいことは一つもなかったの?」
 そうお母さんが聞くと、マキちゃんは大粒の涙をポロポロこぼしながら、大きくうなずきました。お母さんが続けます。
 「困ったわねぇ……そうだ。マキちゃん、毎日が楽しくなるように、お母さんと一緒に、『しあわせ探し』してみない?」。
 マキちゃんはきょとんとして、お母さんの話を聞きました。
 「いい? 右手と、左手をグーにしてごらん。そうそう。で、今みたいに、悲しい、嫌なことがあったら、右手の指を立てて数えてみるの。で、左手は、楽しい、うれしいことがあった時に、同じように指を立てて数えてみるのよ。どっちが先にグーからパーに変わりそうかな……?」
 するとマキちゃんは「……右手……」と答えました。
 「そうよね。今のマキちゃんは悲しい、嫌な気持ちのほうが多いから、右手のほうが先にパーになっちゃうよね。うれしい、幸せな気分にはなれないかな? 難しい?」
 マキちゃんは、涙をまだいっぱいためた目でうなずきます。
 「そうねぇ……」。お母さんはマキちゃんを膝に抱っこしてこう続けます。
 「嫌なこと、つらいことはすぐに見つかるけど、うれしい幸せなことって、頑張って自分から探さないと、見つかりにくいのかもね。そうだ。一日の終わりに、お母さんと一緒に数えてみようよ。ね? うん。そうしよう」
 マキちゃんは突き出した小さなグーの両手をじぃっと見つめました。
 
 それから、マキちゃんの「しあわせ探し」が始まりました。最初はなかなかうれしいことが見つかりません。一日の終わりに思い出すのは嫌なことばかりです。
 「今日も誰とも遊ばなかった。楽しくなかった」と、お母さんの膝の上で泣きべそです。
 「必ず、幸せは近くにあるよ」とお母さんは毎日励ましました。
 「おはよう!って、友達に声かけた? おいしい!って、給食、食べた?」と、うれしいことが増えるように、お母さんはマキちゃんに話しかけます。
 ある日、「今日は、勇気を出してあいさつしたら、みほちゃんが、おはようって、言ってくれた!」と、やっと左手の指で、一つうれしいことが数えられました。
 「やったね! 頑張ったね!」
 お母さんはマキちゃんを抱き締めて、一緒に喜びました。
 「毎日もっと増えるといいね!」とのお母さんの言葉に、マキちゃんは大きくうなずきました。
 そんなある日、マキちゃんが息を弾ませて帰ってきました。
 
 「お母さん! お友達が出来たの!」
 「まぁ!」とお母さんはマキちゃんと一緒に大喜びです。
 「すごいじゃない!! よかったわね!」
 「うん!!」
 マキちゃんはとびきりの笑顔です。一生懸命お母さんに話します。
 先日の体育の授業の時に、同じクラスのみほちゃんが転んで、膝をすりむいたのです。その時、マキちゃんは思わず、持っていた自分のタオルですぐに血をぬぐってあげたのです。今日、そのみほちゃんが、照れくさそうに「マキちゃん、こないだはありがとう」と言って、洗濯したタオルを返してくれたというのです。
 「遊ぶ約束したの。行ってきまーす!」
 うれしそうに、マキちゃんはランドセルをお母さんに押しつけて、飛んで行ってしまいました。
 「あらあら……」
 お母さんもうれしそう。
 このことをきっかけに、マキちゃんは、「しあわせ」と思えることがどんどん増えてきました。
 「お名前が自分で書けるようになったよ」
 「お友達が増えたよ!」
 毎日お母さんと数えるうれしいことは、いつの間にか片手だけでは足りなくなり、両手を使うようになりました。しまいには、「今日は両手では足りないの」と、靴下を脱いで、足の指も使って数えました。
 いつしか、わざわざ嫌なことを数えなくなりました。マキちゃんはいつも笑顔でいっぱい。お友達もいっぱい。楽しそうにしているマキちゃんを見ているだけで、幸せな気分になれるほどでした。

 そんなマキちゃんも今は高校生です。
 「一日の終わりに色々振り返って考えると、嫌なことも思い出すけど、翌朝には新しい気持ちで取り組んでいけば、自然と元気になれる!」と、今日も笑顔です。
 今ではもう指でうれしかったことをわざわざ数えたりはしません。そんなことをしなくても、しあわせを探す名人になったからです。
 あなたもしあわせ探し名人を目指して、しあわせを探してみませんか?

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