シリーズ「天地は語る」第1回「草さん、ごめんなさい」


●天地は語る
第1回「草さん、ごめんなさい」

金光教放送センター


ナレ 「天と地の間に人間がいる。天は父、地は母である。人間、また草木など、みな天の恵みを受けて、地上に生きているのである」
 これは金光教の教祖、金光大神こんこうだいじんの教えの一つです。今日は、この教えについてのお話です。

聞き手 先生、こんにちは。
先 生 こんにちは、お久しぶりですね。どうですか、こちらの生活に少しは慣れましたか。
聞き手 ええ、まあ…。
先 生 おやっ? 元気ないですね。確か、自然がいっぱいの生活にあこがれてこちらに移って来られたんですよね。
聞き手 そうなんですが…。
先 生 一体、どうされたんです?
聞き手 はい、来る日も来る日も草取りに追われているんです。時間があれば外に出ていますが、なかなか終わらなくって。やっと終わりに近づいたかと思ったら、最初に抜いたところからまた新しく生えていて、やってもやっても私の仕事は終わらないんです。腰も痛くなって、もう大変で…。
先 生 そうでしょう、そうでしょう。よく分かりますよ。街中と違って家の周りが全部土ですからね。それに畑も広いようですし、草取りは、本当に終わりのない仕事ですよね。
聞き手 はい。ついつい草が憎々しくなって、むしり取っています。
先 生 おやおや、憎々しいとは。それでは草がかわいそうですね。
聞き手 えっ、かわいそう?
先 生 ええ。先日、ある方がね、こんなこと言っていました。「草さん、せっかく生えたあなたの命をうばってごめんなさい」などと声をかけながら草取りをするそうです。
聞き手 へえ~「草さん、ごめんなさい」ですか。
先 生 はい。またその方はね、心配事があったり、イライラして心が乱れている時には、外に出て草取りをするんですって。草取りに夢中になっていると、いつの間にか心が落ち着いてきて、気持ちが安らいでくるそうですよ。
聞き手 私と反対ですね。
先 生 それにね「抜いても抜いてもまた生えてくる草。あのたくましい雑草のエネルギーに感心しながら草取りをしていると意外に仕事がはかどっていました」って。
聞き手 へぇ~。
先 生 草も人間の都合で引き抜かれるのですからね。普段私たちは自分の役に立つか立たないか、都合が良いか悪いかだけで物事を見てしまいがちです。生活する上でやむを得ず草を抜くということもありますが、それを仕方のないことだと済まさずに、お断りするという気持ちは大切だと思いますよ。それに、雑草などという名前の草はないですし、草の中には私たちの役に立ってくれているもの、驚くほどたくさんあるんですよ。薬草であったり、栄養があっておいしくて食べられる食材もたくさんあります。可憐な花も咲かせてくれますし。
聞き手 そうですねぇ…。
先 生 それに草が生えないような土地には、野菜も花も木も育ちませんしね。それでは、人間は生きていけませんよ。草が生えるのは土地が生きている証拠です。草だって、人間と同じように天と地の恵みをいっぱい受けて生きているのです。
聞き手 天と地の恵みですか。
先 生 そうですよ。草木は太陽の光や熱、雨などの天の恵みをいただいて育つでしょ。あなたも野菜を育てていると、天の恵みについていろいろ気づくことあるんじゃないですか。
聞き手 はい。夏、暑くて晴れた日が続くと、トマトなんかはすぐに驚くほど真っ赤に熟れて、それはおいしいです。
先 生 そうですね。反対に日照時間が少ないと実のなりがよくありませんよね。人間は、世話をしているとつい自分が作ったかのように思いがちですが、そうではないですね。
 そして、地の働きもすごいですよ。土は自然物の一切合切すべて受け入れ、それを肥やしにして新たないのちを生み育てます。私はね、アスファルトの上で動かなくなった昆虫などを見つけると、拾って土の上に移してやるんです。
聞き手 それはどうしてですか?
先 生 どんな命であっても、最後は土に還ってほしいと思って。そうすると、死骸は分解されて、他の新たな命を生み育てる働きができますからね。
聞き手 そうですね。それぞれの命が、土の中で働き合って、姿を変えて…、後々のお役に立っているということですね。
先 生 そう、土の中には、計り知れない程たくさんのいのちがうごめいているのです。大きくて温かくて時に厳しい天の恵みを受け、そのすべてを受け入れ、それを肥やしにしていく地の上に生かされているのが私たち人間であり、そして草木なんですね。ちょうど、父、母の懐の中に抱きかかえられるようにしてね。
聞き手 お話を伺っているうちに、私…草を憎々しく思う自分が恥ずかしくなってきました。私も「草さん、ごめんなさい」と、声をかけながら草取りをするようにしてみます。
先 生 それはよかった。草木も人間も、どれ一つとして漏れることなく、天と地の恵みを受けて、命を頂いて生かされ育ったもの同士である、ということを忘れないようにしたいものです。
聞き手 はい、そうですね。先生、今日はありがとうございました。
先 生 ありがとうございました。

ナレ 「天と地の間に人間がいる。天は父、地は母である。人間、また草木など、みな天の恵みを受けて、地上に生きているのである」
 今日は、この教えについてのお話でした。

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